9日(水)朝検察庁の前を通ったら,マスコミの車がたむろしていた。後で,指定代理人が小沢被告を控訴し,記者会見を開いたのだと知った。控訴期限は10日。そのころ,虚偽の捜査報告書数通がネットに流出されている。発信元は不明だが,ロシア経由でばれないようになっているらしい。
実は,控訴はないと思っていた。裁判所は検察(指定代理人)による法的構成を認めたうえで無罪と認定したのだ。疑わしきは罰せず,つまりは検察の立証では不十分だとの判断である。通常の事件であれば,裁判所のその判断は誤っている,他の同種事件に波及するおそれがあるとして控訴をするという選択肢は当然にありうる。しかし,本件は事情が異なる。
もとはといえば,検察が不起訴にした事案である。しかも虚偽報告書問題が絡んでいる。現場は起訴したがったが,上層部は不起訴を指示,これに反旗を翻す形で,虚偽報告書を作成したうえ検察審査会に起訴相当の議決をさせたとの疑いが濃厚だ。この点を判決も指摘し,明確に検察を批判している。つまりは起訴自体が違法であり,無罪以前の公訴棄却という判断もありえた事案だからである。
捜査報告書がそもそもなぜ作成されたのかおかしいと以前書いてきたが,それは私の勘違いだと,はたと気がついた。検察審査会の「起訴相当」の議決を受けて検察は再捜査をしなければならず,その結果を検察審査会に報告するのは当然なのである(ただ,その後の公判には通常出ない)。だから問題は,再捜査の結果やはり「不起訴相当」として検察審査会に送り返した時に,その趣旨の反対である,起訴を相当とする趣旨で作られた(しかも虚偽内容で)ということの問題なのである。
虚偽であることは,再捜査で取り調べられた石川被告が隠し取りをしていなければ明るみにはならなかった。ばれないと,当事者らは考えていたはずである。そこに,小沢はけしからん,上層部が不起訴だというのなら,自分たちで別途検察審査会を使って起訴させてやろうじゃないか,そんな意思が働いたと見るのは容易である。肥大化された自己,誤った万能感は,大阪地検特捜部の証拠捏造事件に流れるものと共通である。
検察での控訴は勝手には決められない。控訴審査会を開き,資料を作成し討議し,原判決が覆るか否か,何重にも審査する。刑事事件における控訴審は事後審である。一審判決のどこにどんな不備があるのか丁寧に吟味される。逆に言うと,よほどのことがなければ一審判決は覆らない。覆せるだけの資料なり新証拠がなければ,たとえ判決に不満はあっても控訴は断念せざるをえないのである。検察は公益の代表者だから,単なる義侠心や不満だけで,被告をその地位に長く留まらせてはいけない。
ところが,新たに設けられた強制起訴制度では,控訴に関する規定がない。控訴が出来ないとも書いてはおらず,3人の指定代理人だけで控訴の是非を決めたのだ(もちろん誰かのアドバイスなり意見なりは相当程度あったと思われるが)。それほどの強大な権限を,たまたま弁護士会が選任した2?3人の指定代理人だけで決めてよいのか,甚だ疑問である。
いずれにしても,この控訴によって政治が停滞するのは与野党ともに避けてほしいと,つくづく願わずにはおられない。