大相撲が熱い。昨年春場所にデビューしたアマ横綱遠藤がスピード出世をして、今春場所は前頭筆頭。両横綱と2大関に続けて4敗したものの、5日大関稀勢の里、6日玉鷲(前頭筆頭)、7日琴欧州(関脇)、昨日8日は絶好調の大砂嵐に勝ち、続けて4勝とした。星5分。勝ち越しが見え、来場所の新三役が現実化してきた。立ち合いの変化などに頼らず、正攻法なのがよい。遠藤はまさに期待の星である。
ルックスも良くスター性十分である。体が非常に柔らかいのは天性の素質に加え、小学1年から相撲をやり四股を踏み、鍛錬を重ねてきた故であろう。足腰も極めて強く、今や「土俵際の魔術師」と言われる。昨日などもまさに芸術業だった。サンデースポーツでの尾車親方(元大関琴櫻)いわく「(こんなやり口をしたら)私だったらばりばりになってすぐに救急車で病院に運ばれていただろう」。課題は立ち合いの圧力である。立ち合いの際に顔が右に傾く癖があり、そこを上位につけこまれて負けているとのことだ。
しかし負けた大砂嵐も素晴らしかった。ここまで破竹の7連勝、前場所では遠藤に勝ち、その時と同様回しを取らせずに得意の突っ張りで行く作戦かと思いきや、正攻法で組んできた。その並外れたパワーで9割9分、勝ちをものにしたのに、最後に突き押しで敗れた。これは「右の上手が遠藤の下手を殺せていない(空間が生じていた)」(尾車親方)からであるらしいが、遠藤以外の力士であれば絶対に大砂嵐が勝っていた。
彼が素晴らしいと思うのは、はるばるエジプトからどうしても相撲がしたいと一人日本にやってき、最後に受け入れてくれた大嶽部屋で便所掃除、料理当番に加え、激しい稽古に耐えてきたことである。日本人力士でも逃げ出す若者が多い環境下、文化も食生活もまるで異なり言葉も通じず家族も親しい人もいない中、常人には決して真似のできない努力をしてきたことである。もともとアスリートとして優れた身体能力を持ち、力任せに勝つ嫌いがあったが、今や日々相撲の型を着実に身につけ、今場所は流れに乗った素晴らしい相撲を見せている。昨日の遠藤戦でも「待ったなし」に先にしきりに手をつき、遠藤が手をつくのを大人しく待っていた姿勢など、他の力士にも見倣ってほしいものである。今時の日本人に忘れられた礼儀正しさが彼には備わっている。
遠藤と大砂嵐。互いに天賦の才能・資質に恵まれたうえに努力を重ね、人気者でもあり、相撲界をリードしていく若武者だ。天才は自らの天井が無限に高いが故に、そこに到達するのはただ使命感であろう。凡人にとって努力は苦労だが、彼らにとっては決して苦労ではなく、昨日の自分より今日の自分が上にあることが楽しくて仕方がないはずだ。
しかしこの一方で、琴欧州の無気力試合はなんなのだ。帰化して親方株を持ったことで安心しているのだろうが、観客に失礼だ。すでに1勝7敗、当然負け越して次場所は幕内下位に転落する。もちろん引退をするのだろうが、気力がないのなら場所前に引退をするべきだった。でなければ最後まで真面目に取り組まなくては。終わりよければすべて良し。引き際こそが人生を決める。琴欧州は10年以上活躍し、好きな力士でもあっただけに残念でならない。