弁護士という商売

「騙される検事」という本があったけれど、弁護士は「依頼者に騙されるな」。
  あえて弁護士を騙そうとする人もいるし、そこまでではなくても、人は一般に自分が可愛いもの。あえて不利なことは言わないし、自分の都合の良い解釈などはしょっちゅうです。弁護士たるもの、人のそうした本能・習性を知った上で、冷静に、少し離れた所から、「まずは依頼者を疑え」。
  依頼者にしてみれば、弁護士から聞かれなかったからあえて言わなかっただけで、聞かれたらちゃんと答えていたかもしれないのです。いや、そこは聞き出さないといけないし、それが弁護士の腕であり人徳というものでしょう。

 親しい弁護士の話ですが、貸金返還請求を起こしたら被告が抗弁していわく、「原告からかつて同じ訴訟を起こされ勝訴している」と!! 訴えを取り下げる事態を想像しただけで、背筋が寒くなります。
  そこまでには至らないのですが、昨月、私もひどい目に遭いました。
  気の遠くなるほどの労力と時間をかけたのですが、諸般の事情があって辞任やむなきに至りました。然るべき時間給なり報酬は戴いてもよかったのですが、あえて一切取らず、まさに骨折り損のくたびれ儲け。
  でも、ものは考えようです。幸い訴訟を起こすなどの大事には至らなかったし、高い勉強代を払ったお陰で、以後格段に賢く(?)なりました。そのすぐ後に別の人から刑事告訴を頼まれた際、疑いをもってあることを尋ねたところ、ピンポン! すんでのところで危うい告訴に荷担せずに済みました。
  弁護士たるもの、変なことをしたら恥ですからね。なんでもこれ、用心に越したことはありません。

 紹介者の顔を立てながら上手に断るにはコツが要ります。
  それでもきちんと断っているうちに、あの弁護士は変な事件は受けない、と事件屋のほうで感づいて、近づいてこなくなります。
  司法修習の時の弁護教官が言っていました。「皆さん、半年間事件が来なくても食べていけるように、精出して貯金をしておきなさいね。じゃないと変な事件が来てつい手を出すことになって、そうしたら、後はもうそんな事件しか来なくなりますから」と。
  昨秋、とあることで某弁護士事務所を訪問したときのこと。依頼者が冷蔵庫を開け、我が物顔に振る舞っていたのです。その依頼者は後に事件屋だと分かりました。弁護士仲間いわく、「性格はいい奴なんだけどね」。困ったからか、あるいはよく分からなくてか、何かの拍子でそうした事件屋と付き合うようになり、以後うまく使われるようになってしまったのでしょう。
  弁護士が誰かによって、事件の筋の良し悪しが分かる。一面のたしかな真実です。

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