まさに青天の霹靂とはこのことだ。我々法曹関係者にとっては、どんな事件よりも重く、憂鬱である。司法試験委員である明治大学法科大学院の憲法教授(67歳)が教え子の同大学院修了生(20代後半女子)に憲法の論文問題を漏洩し、あまつさえ微細に答えを指導した。
発覚は、女子学生の答案があまりに完璧で事前の漏洩がなければありえないレベルだったことによるという。もし彼女が手加減をして書いていたら(普通の感覚であれば、分からないように書く)この悪事はばれなかったはずである。見方を変えれば、他にも漏洩された受験生がいるかもしれない。
報道によると、法務省の調査時に教授は漏洩を認めなかったが、地検特捜部に調べられ、認めたとのことだ。捜索だけで逮捕がないなと思っていたが、そうだ、このまま否認であれば逮捕すると言われて認めたのだと気がついた。容疑は国家公務員法の守秘義務違反(司法試験委員は国家公務員の扱い)、刑罰は「懲役1年以下又は50万円以下の罰金」(100条)と軽いが、試験委員は解任、大学も懲戒解雇である。家庭も崩壊だろう。なにせ教え子に恋愛感情があってのこの悪事では、家族も庇いようがない。
数年前、やはり司法試験委員だった慶応大学法科大学院教授が勉強会で問題を教えたことが発覚し、大学も辞め委員も解任されたと聞く。新司法試験では各法科大学院の合格率は、とりもなおさず大学のランク付けになるので、極めて熾烈である(因みに神戸大学は今年、一橋、京大、東大に続く4位であった)。合格者ゼロの法科大学院はすでに淘汰され、合格率の低い所は軒並み定員割れを起こしている。当初3000人合格を謳い、法科大学院さえ出れば70%合格と言っていた設計は当初より実現せず、合格率25%程度で推移している。それでもなお弁護士の就職難は深刻で、議員時代、日本は訴訟社会ではないし司法書士などの隣接職種がたくさんいるのであえて法曹を増やす必要はないと言っていた私の主張は正しかったと今でも思っている。
教え子に合格してもらいたいと願うのは人間として当然である。だがそのために不正に手を染めるということは全くの別次元である。その慶応大学教授にしても(このレベルは他にもいたかもしれない)、またこの明治大学教授については色恋という私情のために悪魔に魂を売り渡していることにはたと気づかなかっただろうか。仮にも将来の法曹を決める試験なのだ。法と正義が生業の仕事に、そもそもの入口から不正を犯して入ることに、教え子もまた良心の呵責を覚えなかっただろうか。
漏洩をもし教え子から持ちかけたとしたら守秘義務違反の共犯だが、教授は自ら持ちかけたと言い、単独犯の扱いである。しかし法律違反にならないからどうだというのだ。不正の手段で入っておいて、一体どんな顔をして、人に説教したり仲裁したり出来るのだろうか。5年間の受験資格禁止といった軽い問題ではない。この馬鹿な教授と教え子によって、我々法曹が自負する司法試験の権威がどれほど傷ついたか計り知ることはできない。真っ当な合格者も、あるいは漏洩?と疑惑を招かれるかもしれず、また惜しくも不合格になった人たちはより一層悔しいはずだ。人生をかけて1点2点の熾烈な争いをしているのだから。
完全な防衛策は難しいかもしれない。組織をどう変えても、結局はそこに充てる人である。当該教授は12年も関わり、自分が受験生にとって神であるかのような勘違いをしていたことは想像に難くない。担当者を短期で変えることも必要だし、もちろん人間的に真っ当な人を選任することが肝心だ。おそらくこれから格好の週刊誌ネタとしていろいろ出てくるだろうが、ネットではすでに、教授が特定の女子学生を依怙贔屓して高級店に食事に連れて行っていたというようなことが出ている。ニックネームは「ブルー卿」だそうである。