VWの排ガス規制不正が世界を騒がせ、日本の会社はこんなインチキはしないからトヨタが世界一に返り咲いてよかったなどと呑気なことを思っていたら、何のことはない、旭化成と東洋ゴムが相次ぐ偽装発覚で大問題になっている。
旭化成(建材)のへーベルハウスは、先般の鬼怒川氾濫の際にも唯一流されなかったと喧伝されていたほど良質のはずだが、一体何がどうなって、同社が基礎工事を施工した横浜の大規模マンションが傾くまでになったのか。もともと建設にはクレームがつきもので裁判所には建築紛争専門の部署まであるのだが、とにかく専門分野かつ中は見えないので、発注者としては信用ある業者を選ぶしか手がないし、物件購入の際も施工業者を信用するしかない。そうやって吟味を重ね、一生に一度の、まさに人生を賭けた買い物が意図的な欠陥住宅で、建て直し・引っ越しが必至とは、耐震偽装物件が世間を騒がせた記憶も冷めやらぬ中、住民の方々にはなんと気の毒なことだろうと思う。
さすが大手なので、旭化成建材はもちろん、元請けの三井住友建設も販売会社の三井不動産も一次下請けの日立子会社も、全面的な調査・賠償を約している。旭化成建材がこれまでに関わった全物件の調査も約束された。とにかく企業の危機管理としては、決して隠ぺいをせず、直ちに謝罪し、厳格な調査をして全面的な賠償・協力を惜しまないことである。おそらく何百億円もが必要であり、いくら旭化成が大会社で建材はその一部に過ぎないとはいっても大きな業績悪化は免れず、最悪の場合には会社が潰れるのではないかとの声もあるが、しかしそうはいってもそれが被害を最小限に抑える最善の方法であることには疑いがない。危機管理対策は各企業において進んできていると実感させられる。
しかし、もちろん最善の危機管理は、被害が起こってからではなく未然にその発生を防ぐことである。建設業界特有の問題としては、大きな物件ほど、子請け、孫請け(さらにもっと)という何重もの下請けで成り立っていることがある(旭化成建材も二次請けだ)。比較にはもちろんならない零細な下請け業者の相談を受けたことが何度かあるが、過酷な状況であり、人件費を削るか材料をけちるか、そうした構造的な仕組みの上でぎりぎりに関係者の生活が成り立っているのでは工事そのものが危ないなあと思うことがあった。本件は、担当者が基礎の杭打ちをサボり、そのデータを改ざんしたというのだが、そんなことがたった1人の現場の思いつきで出来たはずもない。それによって得る当面の利益は何だったのか。一次請けのチェックも働かなくては、全体として構造的な欠陥があったとしか思えない。
私自身東京には検事時代からすでに20年以上住み、当面まだ住むはずなので、ここ10年ほどはマンション購入をずっと考えてはいて、折込チラシもよく見ているが、思い切らないままでいる。高い賃料を払い続けて自分の物になるでなし勿体ない、アクセスさえ良ければ価格は下がらないから売っても損をしない、とよく言われるし、経済学的にはたしかにその通りだろうと思うのだが、踏み切れない一番の理由は、賃借の気軽さ故である。近隣に変な人が来ても、前方に高層階が建って日照や眺望が悪くなっても、その時は出ていけばよい。これまた弁護士として時々相談を受ける、住人の管理組合絡みの鬱陶しい案件とも全く無縁だ。つまりはストレスフリーを金で買っている、という図式である。今回の事件はそれを裏書きしてくれたことになる。一流企業の施工・販売でも安心できないとしたら、では何を信用すればいいのだ?
先週、ロッテの浦和工場・研究所に行った。食品メーカーの信用はとにかく食の安全である。その生命線を保つために、できうることはすべてやる。起きてからでは実は何をやっても遅いのだ。起きないように、あらゆる事態を想定して、出来ることはすべてやる。それが企業の基本姿勢である。