舛添事件に思うこと(その2)

「知っている人?」何人もから聞かれた。舛添の依頼した元検事のことだ。とにかく、見ても聞いてもたいそう不快な人だったという。質問をする記者を馬鹿にしたような受け答えの連続というのも容易に想像がつく。横柄な元検事は、残念ながら珍しくないのだ。人を逮捕して取り調べ、起訴をして有罪にする(刑務所に容れる)──まがうことなく最も強大な国家権力は、しかし、その地位に与えられたものであって、その人に与えられたものではないのだが、どうやら勘違いをしてしまうようだ。検事になる前の土台の人間がきちんと出来ていなければ、勘違いは容易に起こってくる。

もちろんこれは、検事に限った話ではないと思う。会社でも官僚でも、政治家でも、そこここにいるタイプであろう。裏返せば、偉い地位に上がっても態度が変わらず、誰に対しても同じように接することのできる人は素晴らしいのだが、それは自らを客観的に見ることのできるバランス感覚故であろう。舛添という人間には、これが全くといっていいほどなかったのだと思う。ちなみに依頼者と弁護士が似た者同士というのは相場であり、互いに似ているのだろうと思う。

私より3年遅い2001年、彼は自民党比例区から参院議員になった。再選され、厚生労働大臣にもなったが、2009年政権交代が起こった。彼は翌10年4月新党改革を作り、自民党を脱退というか除名された(この10年来私は自民党党紀委員──元参議院議員枠が一つある──である)。参議院自民党で一緒だったのは3年だが、口を開けば上から目線の批判であり、言い方も表情も攻撃性がほとばしり出ていた。自分は絶対的に偉い人で批判の対象になろうはずがないのだろう。出て時も自民党に罵詈雑言、悪口の限りを尽くして出て行った(その昔、東京大学を辞める時もそうだったらしい)。

彼は自己顕示欲の塊であり、東京都知事を狙っていた。参院議員になる前の1999年、立候補したが石原が当選、鳩山邦夫に続く3位だった。その石原都知事が任期途中の2012年に辞め、後任に猪瀬知事がついたが、わずか1年で徳洲会からの5000万円受領疑惑が露わになり、都知事を辞職。その後任を選ぶ選挙に、当時参院議員を辞めていた彼は好機到来とばかり、積極的に手を挙げ、自民党もこれに乗って推薦したのである! 2014年2月都知事就任。最初こそうまくやっていたようだが、根が自信過剰なので、慢心するのに日はかからず、あちこちから不平不満が出るようになった。内部からのリークにより、今春以降週刊誌記事が続く。

最初は高額な海外出張費について。昨秋のパリ・ロンドン出張費用が5000万円に上り、航空機はファーストクラス、ホテルはスイートを利用していることが問題視された。対して彼は「条例に基づいている」と反論。さらに「トップが二流のビジネスホテルに泊まりますか?恥ずかしいでしょう」と開き直った。まさに、人格の真骨頂躍如の発言だ。「規則に基づいている」「違法性がない」で問題なしとするのは、官僚の答弁ならばよいかもしれないが、トップの発言ではありえない(今回、元検事に言わせようとしたことと根は同じである)。また、誰もビジネスホテルに泊まれと言うわけはなく、詭弁もよいところだ。

文春の告発は続く。他県の別荘に公用車で毎週末のように通っていた問題が「公私混同」と批判された際には、公用車は動く知事室だとか、緊急時にはヘリコプターで東京都に戻る、とか開き直りも極まって、世論の反発を大きくした。続報は続き、家族同伴で飲食店やホテル(スイートルーム!)に出向いた際の費用を政治資金から支出していたことなどが明らかになる。ここでようやく一応の謝罪をしたものの、会計のミスだとか(自分で領収書を渡すのだから自分の故意であり、他人のミスなどありえない)、ホテルには知人が訪ねてきたので政治活動の一環だった、などと説明。この知人の名前は迷惑をかけるので明かせない──むろん、そうだろう。そんな人は最初から存在しなかった。適当な嘘をつくので、あと問い詰められて動きが取れなくなる(そう言えば、子供がよくそんな嘘をつく)。

時計を巻き戻せるのなら、最初の告発時に素直に低姿勢で謝っておきさえすれば、ここまでには至らなかったであろう。辞職もせずに済んだかもしれない。なぜならば推薦者の自民党は彼を支えるつもりだったからだ。おまけに参院選やオリンピック開催を考えると時期が悪すぎる。ところが、集中審議をしても何の説明もない舛添に、都民ならず日本国中の怒りが沸騰、他の会派がすべて不信任を出すというのに自民党だけ居残れば、怒りは自民党に来る。参院選も戦えない。で急遽足並みを揃えて不信任を出すことになり、それを受けて今日ようやく舛添は辞表を提出した。

最後まで、リオに行くのでそれまで猶予してほしいなど、これまた空気を読めない要望を言い募り、都議会解散カードまでちらつかせて恫喝気味に嘆願を繰り返していた。旗を受け取るべき次期開催の東京都知事が行かなければ国際的に恥ずかしい‥まさか。こんな低レベルの醜聞まみれの知事を出すほうがよほど恥ずかしい。ブラジルは大統領が弾劾されようという国だから、都知事が来ても来なくてもどうということはない。副知事を出しておけば十分だ。彼の罪は、結局はつまるところ、人格そのものの罪であったと思う。

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