驚きの結果(24日)から1週間が経過した。へえ、イギリスって一流国だと思っていたけれどこの程度だったんだ…比べりゃ日本もまだましじゃない、と安心させてくれるほどの混乱、迷走ぶりだ。故チャーチル(いやサッチャーでも)が見ればどれほど嘆くことだろう。
発端は、こんな大事な、まさに国の存亡に関わる選択を安易に国民投票にかけたことである。日本の場合、国民投票は、憲法改正案を両議院が各総数3分の2で可決後にようやく実施されるものだから、帰趨は国民ではなく議会で決せられる。議会は国民の代表者で構成され、議員は政治のプロである(少なくともそのはずだ)。もしこれを最初から国民投票かつその過半数で決するとしたら…考えただけで、恐ろしい。国民の大半は、難しいことについては、正直無知である。残留か離脱か、その長所短所を分かって投票した国民はほんの少数しかいないはずだ。
だからこそ、僅差の52%で離脱派が勝利を収めた後、国中に大混乱が起き、離脱投票数の4分の1に達するほどの超多数が国民投票の再実施を請願しているのである。若者の多くは残留を望んでおり、将来のない老人らが離脱を選んで自分たちの将来を危うくすることに大きく反発している。ネット時代の彼らにとって国境は無関係であり、田舎の老人よりEU内の相手のほうがよほど親近感があるのだ。
国民投票実施のために法律は作ったが、結果について法的な拘束力はないのだという。とはいえ、実際はこのあと離脱に向かって進むのだと思われる。負けたキャメロン首相は直ちに辞任の意思を表示したが、次期首相を目指して離脱キャンペーンを張ったはずの人気者ジョンソン議員(元ロンドン市長)は立候補を断念した。まもなく次期党首、つまりは次期首相が決まる。次期首相においてEUに離脱通告をし、交渉を進め、そして何よりも、分断を招いた国をどうまとめていくのかという大きな舵取りを任せられることになる。残留派スコットランドは、僅差で否決した連邦からの独立を問う住民投票をおそらく再度実施することになるだろうし、北アイルランドも倣うかもしれない。残留派が多数を占めるロンドン市もまた連邦から離脱したがっているというし、そうした混乱が収まって、連邦がまとまるのかまとまらないのか、予断を許さない。
イギリスは統一ユーロを取らず自国ポンドを維持し、国境を越える移動を加盟国同士で自由に認めるシェンゲン協定にも加盟していない。EUから離脱する国がもしあるとすれば、海を隔てたイギリス連邦こそ最もたやすい国ではあった。EUは歴史的に嫌いなドイツがリーダーだし、その他いろいろEUへの不満は燻ってはいたものの、離脱派を勢いづかせたのは大量の移民が流入することへの危機であり、移民に自分たちの職場を取られてしまいかねない中下流の危機感であった。
そうなのだ。その危機感は、アメリカでまさかのトランプ候補が大躍進し共和党の候補に躍り出たのとまったくもって軌を一にしている。今、貧富の差は大きく開くばかり。経済的に不満を持つ層によって政治の帰趨が決せられる現実があるように思われる。今日本も参院選挙の最中だが、世界的な現実を冷静に視野に入れておかねばならないと思わされる。