タレントによる強姦事件に思うこと

仕事でホテルに泊まった際の未明、フロントに電話をかけて歯ブラシを要求、持ってきた女性を部屋に連れ込んで強姦し、指に1週間の怪我を負わせたという。強姦致傷(刑法187条2項)は、強姦自体は未遂であっても「無期又は5年以上(20年以下)の懲役」。無期懲役があるので、裁判員裁判の対象である。

ただ怪我の程度が軽いので、傷害は落として強姦罪(177条前段)で起訴することも実務ではよくある。こちらは「3年以上(20年以下)の懲役」であり、3人の裁判官による裁判である。強姦は被害者の名誉を重んじて親告罪であり、被害者からの告訴がなければ起訴ができない、故に捜査もしない(対して強姦致傷は法文上親告罪から外れているが、同じようにやはり、告訴なくして捜査はしない)。

8月23日に逮捕されて24日に送検、勾留期間は10日間なので満期は9月2日(金)。おそらく勾留は10日間延長されて結局満期は12日(月)。逮捕後すぐについたはずの弁護士がこの間にすべきことは、被害者に謝罪し、示談を成立させて告訴を取り下げてもらうことである。強姦が既遂の場合、示談金相場は1000万円と言われる。「親告罪の告訴の取り消し」は無条件に不起訴になるが、20日間のタイムリミットの中で、被害者側にその気になってもらうのはなかなかに難しい。

もし被害者が示談に応じなければ当然起訴される。それでも公判係属中に示談に応じてもらえれば、初犯かつ若年でもあるので執行猶予がつくであろう。もし示談が成立しなければ──もちろん、実刑である。裁判員裁判になってからというもの、こと強姦の量刑は跳ね上がっていて、昔の検事は驚くばかりだが,懲役10年にはまさかならないはずだ。

報道によれば当初「計画的ではない」と弁解していたようだが、歯ブラシは各部屋にあり、それがないと言って電話をかけて持ってこさせる(フロントに女性が1人いたことを把握済み)のは十分に計画的であろう。あまり思いつかない手口でもあり、前にもやったことがあるのではと思っている。強姦は被害者が泣き寝入りをすることの多い、つまり「暗数」のある犯罪の典型である。

被疑者は「性欲を我慢できなかった」とも言っているそうであり、この弁明に結構納得する向きもあるようだが、性欲が旺盛なことと強姦とは、全く異なる次元の問題である。性欲が旺盛なので妻や彼女と何度もセックスをする、お金を払って処理できる所にしょっちゅう通う、は普通だが、見も知らない女性が必死に抵抗して嫌がるのも構わずしたい、できる、というのは普通ではない。この本質は、暴力で相手を屈服させることに快感を覚える支配欲だからである。検事時代,妻はいるのに外で強姦を繰り返していた被疑者は、女に激しく抵抗されないと快感を感じないのでと、しゃらっと言っていた。連続強姦魔は何人も扱ったが(この被疑者がそうだと言っているのでは、もちろんない)、児童性欲や薬物癖や盗癖同様、まさに病気としかいえないように思えた。

この事件、被疑者が有名人、しかもその母親が有名人であるために、大きく報道されることになった。でなければ誰も注目などしない一事件でしかなかったので,被害者も気の毒だし、また母親も気の毒だ。未成年であればともかく、22歳になった息子について母親はやはり記者会見をしなければならないのだろうか。母子ともに芸能人だからか。もし息子が30歳になっていてもやはり親は弁明しなければならないのだろうか。親の監督といったっておのずと限界がある。不幸にして何らかの精神的な障害を抱える子供が産まれる可能性は誰にだってある。民事の損害賠償額だって大変なものになるのだから、ここで母親を追い詰めたりすることのないようにと願わずにはいられない。

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