まさかの快進撃だった。カド番大関の優勝である(琴欧州の一度の幕内優勝は、それだったという。豪栄道が史上8人目)。それも大変立派な成績だ(今日もし琴奨菊に負けても14勝だが、せっかくなので是非全勝してほしい)。まさに、事実は小説よりも奇なり。競馬だったら、1万円が100万円になりそうなオッズではないか。でもおそらく本人は、今場所は勝ち越しを超え、優勝争いに絡む、そして意地を見せてやると決めていたはずである。
厳しい厳しい、勝負の世界である。どれほど決意しても、結果はまた別である。だが少なくとも、自ら気力を充実させ、万全の稽古を積み、絶対に勝つと決意しておらずして、たまたま運が良くて勝ちが重なるような、やわな世界ではありえない。世間の注目がひとり稀勢の里の優勝・綱取りに注がれ、また同じような成績だった琴奨菊も初場所に初優勝する中、その悔しさは並大抵なものではなかっただろう。
悔しさをバネに、人の何倍も苦労し、努力をした人が報われるのは本当に喜ばしい。昨日はテレビで見ていて、涙腺が緩んだ。豪栄道でなくても、日本人力士の優勝は本当に嬉しいことである。ここ2年鳴かず飛ばずだった遠藤も復活して(怪我が完全に良くなったとは思えないのだが)、3年前の入幕後最高成績となる12勝(今日勝てば13勝)を挙げ、準優勝となった。これまた嬉しいことである。
大相撲も世代交代の時期である。怪我知らずだった白鵬が今場所初めて全休、来場所は復帰するだろうが、ピークは過ぎたと感じる。日馬富士しかり、鶴竜しかり。今場所、遠藤(25歳)はもちろん、若手の御嶽海(23歳)も力をつけてきた。正代(24歳)は立ち合いもっと低く当たらないといけない大きな課題は残すが、きっと克服して上がってくるだろう。
さて、稀勢の里。大関として抜群の成績を残してはきたのは誰も承知するところである。だが、下位への取りこぼしが多いうえ、肝心のここ一番の勝負にめっぽう弱いのだ。豪栄道は13日目、日馬富士との立ち合い前、両者睨み合ったままで行司に割って入られたが、あの気迫と闘志こそが土俵際の逆転勝利を可能にしたのだと思っている。もし負けていれば、豪栄道1敗に日馬富士2敗となり、やはり最後は日馬富士に優勝を持っていかれたかもしれなかった。何が何でも必ず勝つ! その闘志こそが、日本人力士がモンゴル人力士に負け続けてきた元なのだ、と大いに実感させられた。稀勢の里にも一度位は優勝させてやりたいが、彼が優勝に縁遠いのは(優勝決定戦さえ一度も経験していない!)決して、実力はあるけど運が悪いからではない。実力はあるけど気(精神力)が弱くて、ここ一番に弱いからでもない。実力とは心技体併せてのことだから、とりもなおさず、実力がないのである。最強大関から唯一優勝経験のない大関に転じてしまった稀勢の里が、このあと相撲とどう向き合っていくのか。一ファンとしては、あるがままの稀勢の里を見守っていこうと思うのだ。