8日のイギリス総選挙結果、与党保守党は選挙前に330あった議席を12減らして318となり、過半数326を割り込んだ(下院は650議席)。せっかく2020年まであった任期を実に3年も前倒して総選挙に打って出たのは、今後始まるハードブレグジット交渉について、国民の大きな信託を得ようとしたからであり、当然ながらメイ首相の頭の中にあるのは「大勝」であった。
予想外の結果では、ちっともなかった。昨年の国民投票から始める一連の成り行きには、本当にここは議会制民主主義の先進国なの?と思えることが続いた。当ブログで何度も指摘したように、国民投票には元来法的拘束力がなかった。キャメロン前首相が、国民も離脱に反対なのだからという安易な乗りで始めたのが、1?2%の僅差で離脱派が勝利した。賭けに負けたキャメロン氏は潔く(?)首相の座を降り、長く内務相を務めたメイ氏が後任についた。メイ氏自身は残留派だったが、離脱派の勝利のお陰で後任になった以上、膨大な数の請願があった国民投票のやり直しでもなく、議会にかけるでもなく、その後はただひたすら離脱に向かって突き進んだのは周知の通りである。
しかし、離脱派が70%でも占めていれば話は別だが、都会人・若者は圧倒的に残留派であった。対して離脱派の多くは年寄り・地方在住者だ。つまり、生活レベルの中から下の人たち。その人々にとって移民は自分たちの仕事を奪う者であり、そうではない昔は良かった…ということであろう。これは、アメリカの大統領選でトランプを支持した層と見事に重なる。つまり誰を選ぶか、どういう体制を選ぶかではなく、経済格差への不満が結果を左右したのだ。人々が欲しているのは経済的な豊かさであって、主義主張などどうでも良いというのが本当のところなのだ。
ところが、何をどう勘違いしたのか。メイ首相は、そもそも僅差でしかないのに(むしろやり直せばひっくり返った公算も大きい)、国民はEUから離脱したがっていると思い込んだようだ。その交渉のためのフリーハンドを与えて貰うべく、しなくてもよい解散総選挙に踏み切った! キャメロン首相に続いて、不要なギャンブルに打って出て、見事に失敗するという同じ轍を踏んだのである。選挙期間中にテロが2回も起こったのは確かに不運だったろうが(メイ首相は内務相時代に警察官を2万人削減しているので、労働党のコービン首相からずいぶん非難されることになった)、多くの国民の最大の関心事は経済や福祉であり、要するに日々の暮らしであって、比べて治安さえ劣るのに、ましてやEU離脱などどうでもよいことである。離脱して豊かな暮らしが戻るのかといえば、域内で関税がかかってくるし、シティから世界が逃げていくだろうから、結局自分たちの首を絞めることになる。だから、離脱などそもそも止めてよという人が断然多いのである。
メイ首相は、重要なことは夫を含む4人で決め、密室政治と不評だったようだ。それではトランプ大統領と同じである。発言の仕方もヒステリックで、上からの物言いがヒラリーを思い起こさせる。今回の選挙はメイ首相へのいわば信任選挙であり、それに負けた以上、潔く辞任するのが筋である。しかし、首を切られた同僚への謝罪もせずに首相官邸に入ったと、大ブーイングが起こっている。こうした仁義を欠く行動がつまりはその人の人間性を表わすので、政治家への信頼を失墜させるのは、古今東西変わらない。だが、この期に及んで首相の座に綿綿とし、10議席を持つ泡沫党と連立を画策しているとのこと。そうだよね、この人自信過剰だものねえと納得をする。サッチャー氏が初の女性首相になったときに、自分がなりたかったとずいぶんと悔しがったらしい。サッチャー氏はいついかなる時もエレガントだった。男性ばかりか女性の憧れの対象でもあった。エレガンスもユーモアも余裕から生まれるものである。
片や、昨年彗星のごとくに登場し、二大政党のバックグラウンドなしに大統領に就任したフランスのマクロン氏。僅か39歳。この度の国会議員選挙でもマクロン氏の「共和党前進」が7割を占める勢いだという。世界中で今はいろいろなものが変わる時代である。しかしその中心にいるのはやはり「人」である。天才的な頭脳を持つマクロン氏には人を引きつける温かい人間性もまた備わっていると思える。