真のエリートについて考える

フランスに彗星のごとく誕生したマクロン大統領。フランス北部アミアンの出身,両親は共に医師。4人きょうだいのいちばん上だ。小さい時からとにかく優秀,何でも知っている,何でも出来ると評判の,別格の存在だった。ことに詩歌や文学に優れ,演劇もピアノも得意。15歳の時,高校のフランス語教師で演劇部顧問だった、40歳の既婚女性ブリジットと恋に落ちる。憂慮した両親にパリの名門アンリ4世校に転校させられるが,初恋はそのまま続く。29歳で結婚、花嫁54歳。

パリ第十大学で哲学を学び(卒論はヘーゲルだったという。),最後は財界のエリートを輩出する国立行政院(ENA)を卒業。財務省に抜擢されるが,ロスチャイルド銀行に転職。ネスレなど大型合併を手がけ,瞬く間にナンバー2に昇進。36歳でオランド内閣の経済大臣に抜擢され,いわゆるマクロン法を成立させた。フランスでは労働時間の規制が厳しすぎるのだが、商店が日曜に営業できる日を大幅に増やしたのである。昨年,大臣を辞して「共和国前進(en marche!)」を創立,今年大統領選に挑戦。共和党と社会党の二大政党候補がスキャンダルその他で失墜する中,極右のルペン氏と共に決戦に残り,70%の得票を得て,大統領に就任。39歳の大統領は,フランスの歴史上ナポレオン皇帝を除けば最も若い。加えてこの度,議会も新生マクロン派が過半数を制し,以後やりたいことのやれる基盤が整ったといえる。

マクロン氏は,類い希なる知性に加えて,会った人すべてをファンにしてしまう温かな人間性を備えていると言われる。画面を通しても伝わってくるようだ。彼の大きな強みは,文学や音楽や哲学といった,人間性を作り出す教養のバックボーンがあることだと感じている。受験勉強のみをがむしゃらにやって上がってくる人たちとの大きな(大きすぎる,埋めようのない)差といえる。加えて,政治家として凄いのは、実体経済を分かっていることである。銀行に入った理由は2つあるそうだ。1つは,妻ブリジットがアミアンの,6代続く有名なチョコレート工房トーローニュの末娘でお金持ち、それに自らも釣り合いたかったこと,1つには,将来政治の世界に出るのに,資金を蓄えておきたかったからだという。

彼にはフランスをどうしたい,EUをどう改革したい,との大きなビジョンがある。大統領はゴールではなく、そのための手段。党の後ろ盾がなく選挙の経験がなく政治家の経験も浅い彼が瞬く間に大統領になった奇跡を見ていると、きっとやって遂げるのではないかと思えてくる。フランスが素直に、羨ましい。日本にマクロンは出てこないか? うーん、日本だとまずは国会議員にならないと駄目,その上でお歴々を乗り越えてぱっと上に行けるはずはない,だから,マクロンのような人は,もし日本にいても政界には来ないでしょう…。

しかし、そもそも日本に,マクロンのように文学や哲学や音楽といった教養を深く備えた上で,なおかつ優秀なエリートが出てくるだろうか。フランスではマクロンの学んだ高校でもラテン語を教えている。ラテン語は死語だが,知識人にはかねて必須の学問である。日本のように,答えが決まっている受験教育や、実学と言うと聞こえはよいがすぐに答えが出る手軽なノウハウしか教えられなければ、深い精神性が育つ訳はないのだ。戦前の旧制高校と根本から違うのが、そこである。私自身も、教養が薄いなとよく感じる。なぜもっと教えてくれる態勢ではなかったのかと残念で仕方がない。

さて昨日,衝撃の映像と音声が流れた。豊田真由子議員,42歳。年上の男性秘書に暴力,暴言の限りを尽くし,録音された音声が流れて,人格の破綻を明るみに露呈した。こんな女、どこか得体の知れない所から引っ張ってきたのか?と思ったら、東大法学部→厚労省→ハーバード留学,とびっくりするほど素晴らしい経歴だ! 受験は大得意、いわゆるお勉強は出来るのである。だがこの人には間違いなく,知性も教養も欠落している。人間性に欠ける、どころか人格障害者であろう。こういう人が一応エリートとして、それなりに上の立場に行けるシステムというのはどこかがおかしいのではないか。上に立つ者に最も必要なのは、信頼される人間性である。尊敬されて初めて、リーダーなのである。

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