過半数は超えると思っていたが、正直ここまでの圧勝は予想の外だった。自民党は公示前勢力290を284に減らしただけなのだ(定員は前回の475から10減の465なので、占有率は同じである!)。連立を組む公明党が34議席を29議席に減らしたが、併せて313議席。3分の2の310議席越えである。
もとより大義名分のない、権利濫用といってもよい解散であった。冒頭解散の例がこれまでなかったわけではないが、野党の再三にわたる臨時国会開催要求を無視した挙げ句の冒頭解散は、もちろん初めてである。モリカケ隠しと世上言われるのは当然ながら、野党の準備不足と混迷に乗じて「今でしょ」解散を打ったのは間違いがない。そこに、細野・若狭では新党はどうにも進まないと業を煮やした小池百合子が「希望の党」代表に就任したうえ、民進党の前原代表が「名を捨てて実を取る」とばかり、民進党の一気解体、全員希望の党への合流を打ち出した時には、自民党の面々も蒼白になったのだが、結果として、まったくその読みは外れた。希望が「絶望」になり、そして「死亡」した‥うまいことを言う人が世の中にはいるものだが、その通り、希望が信じらないほどの大失速をしたのである。
失速の理由については、小池氏による、民進党リベラル派の「排除の論理」「選別」「全員を受け入れる気はさらさらない」発言が、大方の日本人の反感を買った故というのが一番納得できる見方のようである。実際、たまに工場見学に行くと、不良品を選別し排除するので、これは彼女自身、人を手駒としか見ない心理が何の気なしに発露したものと思われる。もちろん、もっとずっと論理的な理由がたくさんある。すなわち、首班指名者が決まらない、政党組織もなく小池氏の独裁である、この政党は何をどうしたいのかが分からない、仮にも政治家に協定書に署名させて踏み絵を踏ませるやり口は汚い。何より、小池氏自身の能力には相当の疑問符が付く。アドバルーンを上げ、敵と定めた劇場を作り、マスコミを味方につけることには非常に長けている。だが、政策やアイデアを実行に移して実現させていく手腕には乏しい。都知事としての実績はないどころか、何もかも放ったらかしのままであり、問題収束の糸口も掴めない。
反対に、排除されたリベラル派の受け皿として、立憲民主党を作った枝野氏はずいぶんと男を上げた。右とか左ではない、上からではなく草の根からの民主主義といった言葉が新鮮に響き、公示前勢力15から55議席とし、野党第一党に躍り出た。一方、浅はかな読みから、代表でありながら民進党を潰した前原氏は同志をたくさん討ち死にさせて、一体どう責任を取るのだろうか。議員辞職に値すると思うが、たぶん、本人は何も感じてはいないように思われる。
日本は今、幸いに失業率が低く、就職先が見つからない若者もいない。全体にそれほどの格差もなく、それなりに幸せなので、欧米のように政治に不満を持つ層が薄いのだと思われる。それ故の自民党圧勝だったのであろう。以前民主党に政治を任せて大変なことになった3年間を忘れない有権者も多く、ぽっと出の希望の党に夢を託そうなどと思う人がいなかったことはよく分かる(若狭氏がNHKに出て、「政権を取るのは次の次くらい。だから小池氏に今回出てもらう必要はない」と馬鹿正直にも言ったとき、ぶっ飛びそうになった。そんなことを言ったら有権者も票を入れないし選挙運動者もやる気をなくすでしょ、馬鹿じゃない。第一、希望の党がそれまで存在しているの?!)
問題は、いわば敵失による、また日本人がそれなりに恵まれているが故の、ぬるま湯の選択による圧勝を、現政権なり自民党が、これまでの過ちについては国民が水に流し、将来をすべて信任してくれたと勘違いをしはしないかということである。蛙は急に熱湯になると飛び上がるが、ぬるま湯から徐々に熱湯になるとゆで蛙になってしまうそうだ。今、北朝鮮問題を含め、アメリカは人格的に問題があるとしか思えないトランプ大統領だし、ヨーロッパも自国ファーストの風潮になり全体にアンチトランプ(アメリカ)のところに、安倍首相ひとりトランプ(アメリカ)との蜜月状態を吹聴するのは奇異であるし、きっと世界中で総スカンを食っているのではないかと危惧されてならない。一国民として、きっちり判断のできる人でありたいと思っている。