偽メール騒動(その2)

  先日、外務省出身の有名な方と宴席を共にした際、例の偽メールについてこんなことを言われた。
「○○(ガセネタ提供者の具体的な名前)は私文書偽造に問えないのですか?」
「無理ですね」と私。
  文書偽造には公文書偽造と私文書偽造がある。公文書のほうが信用が高いので、偽造に対する刑罰も当然に重い(公文書1年以上10年以下の懲役。私文書3月以上5年以下の懲役)。
  実は、偽造には二種ある。有形偽造と無形偽造。といっても一般の人には何のことだか分からないはずだ。有形偽造は、作成権限のない人が他人名義の文書を作成すること。一方無形偽造は、作成権限をもつ者が真実に反する内容の文書を作成することである。
  本件は、ホリエモン作成名義の文書を偽造したのであるから、もちろん私文書偽造のほうだ。だが、作成名義がもともと黒塗りなのであれば、誰の文書を偽造したのか不明である。であっても内容は虚偽であるだろう。だが、私文書の場合、公文書と違って無形偽造が処罰されるのは、虚偽診断書等作成のみなのである(刑法160条。刑罰も3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金と軽い)。

「じゃ、ひどいなあ。まったく処罰されないのですね」
  と彼は言う。
  もちろん詐欺は成立しうる。被害者がガセネタを本物と偽って騙され、対価を支払った……。だが、対世間的には、正義感でやむにやまれず出された内部告発か何かであったと思わせたいのではないか。だから、自分たちはこの程度の拙いメールにに騙されて対価(いくら?)を払ったのだと恥をさらけ出すような馬鹿なことはすまい、それが私の読みである。だが、あるいは告訴をするのか。恥の上塗りのように思うが。

  詐欺といえば、耐震強度偽装事件。未だに詐欺で立件とは聞かない。
  もともとこれは難しいと以前に指摘した。関係者が複数いるからだ。設計者、検査機関、建築主(ヒューザー)、コンサルタント、施工者……。
  設計者は検査機関が見抜くはずだと思っていたと弁解するだろう。お互いにそうである。ヒューザーは早速に自ら損害賠償請求訴訟を起こし、責任を免れようとしているようだ。共同正犯には互いに意思の疎通が要る。互いにもたれあい、無責任体質であったというだけでは、故意が基本の刑法犯に問うのは至難の業である。
  まして、ワイドショーなどや一部識者が指摘していた「殺人」などとうてい無理である。殺人の「認容」がないのだから。関係者の誰であれ、いずれ大地震が起きて誰かが死ぬことを認識していたにしろ認容していたとまでは言えない。そんなことになれば自らの責任問題(少なくとも民事上、あるいは行政上の)になるのだから。

カテゴリー: 最近思うこと パーマリンク