手に汗握る試合で、大坂なおみが全豪テニスを制覇した。と共に世界ランク1位に。日本どころかアジア勢初の快挙である。180センチの体格は並みいる欧米勢にまったく引けを取らず、安心して見ていることができる。昨年全米を制して僅かしか経っていない。全豪を制したのは掛け値なしの実力であり、このあとウィンブルドンと全仏を制すればグランドスラム達成だ。加えて2020年東京オリンピック制覇さえも、伸びしろたっぷりの、21歳の大坂には夢というより、手の届く目標でしかないであろう。すごい選手が誕生したものである。
若くてすごい選手といえば、フィギュアの羽生選手。そして、二刀流の大谷翔平選手。国際的にトップクラスの選手が日本にはずいぶんいるなあ、と改めてびっくりさせられる。そこに行くと、国技たる大相撲において、なぜ日本人は劣勢なのだろうと不思議にさえ感じられてくる。唯一久しぶりの日本人横綱だった稀勢の里は引退し、あと鶴竜も白鵬も休場続きで、あとどれだけ横綱を務められるだろうか、覚束ない。大関陣を見ても、高安が28歳なだけで、栃ノ心(ジョージア)も豪栄道も30歳を超え、明らかに下り坂のようである。
今場所は関脇2人が活躍し、玉鷲34歳が13勝2敗の立派な成績で初優勝した。貴景勝は千秋楽、豪栄道に完敗して11勝4敗だったため、大関取りは来場所に持ち越されるが、来場所はおそらく大丈夫だろう。まだ22歳だが、突き押しの型をすでに持ち、取組みに迷いがなく、メンタルの強さを感じる。175センチと、力士としては小さいのだが、そのために対戦相手は四つに組めず、立ち合い速攻で巨漢を押し出すのを見るのは気持ちがよい。格闘技であってもレスリングや柔道のように体重別がなく、あとは自らの体格をどう生かしていくか、短所を長所に変えるかが問われている。
今回、一躍脚光を浴びた玉鷲については、実は、私はかなり前から注目をしていた。モンゴル力士だが、俺が俺が、というあくの強さがなく、表情も至って穏やかだ。張り手やかちあげといった汚い取り口も使わない。30歳を超えて小結、そして関脇に昇進し、たまに平幕に落ちることはあってもすぐに返り咲いて、おおむね上位に定着している。母国でホテルマンになるべく勉強をしていたのが、東大に留学している姉を頼って来日、相撲どころかスポーツもしたことがなかったというのに、19歳から相撲を始め、15年間、ただの一度も休場のない連続出場記録を持つ。怪我をしないはずはないが、休むほどの怪我をしなかったのは、自己管理が十分に行き届いていたことを意味する。
短命に終わる者が多い相撲という世界において、30歳を超えて実力を伸ばしていく力士は非常に珍しい。しかもパワーが必要な突き押し相撲なのだ。モンゴル力士らとつるむこともなく、一昨年末の例の事件の時も欠席したので、難を免れた。趣味はプロレベルのお菓子作りと小物作り‥「女子力」の高さが注目されている、変わり種である。
34歳の優勝は、7年前夏場所の旭天鵬優勝37歳に次ぐ記録と言われるが、これは正確ではない。当時、私は両国国技館に通っていたが、旭天鵬は前頭7枚目であり、上位との対戦のない地位にいた。ところが、中盤までリードして優勝候補筆頭の稀勢の里が終盤失速し、白鵬も精彩を欠いた10勝に留まったため、気がついたときには平幕旭天鵬のリードになっていたのだ。協会は慌てて割を組み直したが間に合わず、旭天鵬は結局、大関と1度対戦しただけで、優勝に至った。つまり、この優勝は本当の優勝とは言い難い、と常々思ってきた。関脇の地位で初優勝した玉鷲の34歳が、名実共に最年長記録というべきなのである。
持って生まれた才能をいかんなく伸ばし、若い時から花開くのも素晴らしいが、地味だが着実に努力を重ね、それを実らせていくのもまた素晴らしいことである。謙虚な玉鷲を手本に、日本人力士も怪我をしないよう、自らの型を着実に磨いていくことを、そして着実に上位を目指していくよう、願わずにはおれない。いずれにせよ、真摯にスポーツに取り組む姿勢は、見る者に感動と勇気を与えてくれる。そのことに素直に感謝である。