本当に素晴らしいことだと思う。幕内最年少の22歳が、大関昇進をものにした。背の低さは幕内で下から3番目。相撲で脚が短いのは不利でないにしても、腕が短いのは明らかに不利であろう。相手の廻しが取れないからだ。ことに力士の大型化がめざましい昨今では、相手の懐は深くなり、よけいに届かない。相撲は、レスリングや柔道と違って体重別がなく、体格の差がそのまま取り口の差となり、勝敗を分けることにもなる。
だが、強くて賢い佐藤貴信少年は、怯むことがなかった。欠点に拘泥することなく、自らの体格を生かす相撲を考え抜く。足腰を鍛え上げ、得意な突き押し相撲を磨き、誰にも真似の出来ない攻撃方法を身につけていく。父親が貴乃花の大ファンだったことから貴の字を、織田信長から信を貰った名前だという。中学横綱になり、名門埼玉栄高校3年時から貴乃花弟子として大相撲に出場。その後は出世街道を駆け上がっていく。昨年、貴乃花の突如の引退で部屋換えを余儀なくされて以後、初の幕内優勝・3場所連続二桁勝利と、無類の強さを発揮できるようになったのは、マスコミが押しかけるなどして稽古に集中できなかった以前の環境を脱し得たことも大きかったのではないか。
「武士道精神」「思いやりと感謝」。自ら考えた言葉で流ちょうに口上を述べた。頭の良さが伺える。貴景勝は歴史好きだそうだ(父親もそうだろう)。景は女将から貰った字だと言う人もいたが、半信半疑だった。実際は上杉景勝(上杉謙信の養子)から付けた名前であるらしい。景勝は寡黙な武将であった。勝っても負けても喜怒哀楽を表に出さない、勝負師かつ大人の貴景勝に相通じるものがあるのだろう。昨年場所に怪我をし、今後長く続けるためには怪我をしてはいけない、そのためにどうするかと考え、食生活を見直し、体重管理も子細に行っているという。まさにプロの力士である。
両横綱及び大関豪栄道はすでに30歳をいくつも超えた。大関高安にしても29歳だ。大けがをして幕下まで転落していたのに奇跡的に回復し、昨年30歳で大関に昇進した栃ノ心は来場所関脇に転落する(10勝すれば戻れるが、難しいだろう)。大相撲には世代交代の波が大きく押し寄せている。御嶽海に期待していたが、三役定着こそ2年になるものの肝心の二桁勝利には遠く、将来が見えない(26歳)。とにかく自他共に認める稽古嫌いだそうで、奮起を促したいと思う。あと期待できるのは、北勝富士(26歳)と大栄翔(25歳)だろうか。大学相撲ライバルの豊山と朝乃山、共に24歳は大器として期待しているのだが、まだまだのようだ。眠れる巨象逸ノ城(25歳)が今場所14勝と覚醒した感があり(大きな怪我をしないのが強みである)、このまま大関に昇進するかもしれない。
最近人と話していて、スポーツが好きなんですね、詳しいですね、と言われることが多くなった。スポーツは全然出来ないし、見るのも大して熱心ではなかったのに、言われてみれば、たしかに相撲歴は15年になるので、詳しいのは確かである。野球はさほどではなかったのに、昨夏の高校野球で突如目覚め、今はカープファン(広島出身)とロッテファンとして野球全体に関心を持っている。イチローの引退は、45歳まで怪我なく、自らをストイックに管理し続けてきたその姿勢に脱帽している。不世出の選手であろう。
不世出といえば、フィギュアスケートの羽生選手。その美しさは群を抜き、まさに氷上のバレエである。それなのにこの競技、点数の配分・付け方がおかしくはないか? ネイサン・チェンがどれほど4回転を種類多く、それぞれ高さ・フォーム共完璧に飛んだからといって、美しさや感動とは別ものではなかろうか。芸術ではなく、単にスポーツだというのだろうか? このままだとこの競技はジャンプを競うものになり果ててしまいそうである。であれば、例えばロボットにやらせればよいのではないか。負けず嫌いの羽生選手はジャンプの向上を誓ったが、でなくても足首は怪我をしたままである。どうか、無理をしないでほしいと願わずにはいられない。