新型肺炎危機に思うこと

中国発新型コロナウィルスの脅威が止まらない。一昨日、外務省事務次官の講演を聞く機会があったが、2月11日午前零時点での感染者数(中国国家衛生健康委員会発表)は、感染42638人、感染の疑い21675人、死亡1016人、治癒3996人。民間サイトでは(11日午後5時時点)感染42718人(死亡1017人)。1万人当たりの感染者数は0.305だが、発生源とされる湖北省全体では5.424、うち武漢に限れば16.655と、極めて高い。

世界保健機構(WHO)によると感染者は12日時点で、中国国内ばかりか世界中に約4万5000人。日本国内は横浜港で検疫中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を除けば28人と多くはないのだが、武漢などへの渡航歴のない神奈川在住の80代女性が死亡したり(その義理の息子である70代タクシー運転手も感染)和歌山の50代男性医師が感染したりして、感染経由が不明であり、どこまで広がっていくのか読めないところが不気味である。

事務次官の話によると、同クルーズ船の船籍はイギリス、運行会社はアメリカ。横浜から出港したので日本人乗客が多いが、アメリカ人、オーストラリア人、カナダ人なども相当数に上るという。本来は船籍のある国がすべてを負担すべきなのだが、今回は日本が負担している。たまたま日本だから可能だが、ではない国であればどうなるのか。これまでにないケースなので、今後考えていかなければならないことだという。

中国は感染拡大の防止という政策上の判断で、約6000万人の住民が暮らす湖北省の交通を遮断して封鎖する、史上最大規模の検疫を実施した。そのうえ武漢市政府が中国伝染病防止法などに基づいて新法を制定、人の移動を制限したため、在留者は日本に帰国できなくなっていた。そんな中、外務大臣レベルで粘り強く交渉した結果、日本からチャーター機を出して日本人を帰国させるばかりか、「人道的観点」から中国籍配偶者も共に帰国させることが出来た(これまで4回の派遣で計763人帰国したうち日本人は684人、残りは中国籍の配偶者)。中国の日本に対する友好的態度の現れと見ることができるであろう。

12日時点、世界129か国が中国からの入国を何らか制限している。中で米国、シンガポール、オーストラリアなどは中国全土からの入国を拒否。日本は、入国申請日前の14日以内に湖北省に滞在歴がある外国人や、同省で発行したパスポートを所持する中国人の入国を、この1日から認めていない(13日にはこの措置を浙江省にまで拡大した)。人の移動が大幅に制限されることは、中国の経済のみならず世界経済にも大きな影響が出ることは必至である。時期悪く、まもなく東京オリンピックが始まる。人が大幅に移動する前にできるだけの収束を見なければ、一体どんなことになるのだろうか。

武漢辺りはこうもりなど野生の動物が売られ、食されている地域と聞く。そういう動物からこの新型ウィルスは広まったのだろうか。武漢といえば、1911年、清王朝の最後の皇帝が倒された辛亥革命が始まった都市である。当初武漢の眼科医李氏が、通常の治療に反応しない奇妙な新しい肺炎の症例を目撃し、医学部時代の同窓生のチャットグループで警告を発したのだが、そのことで彼は勤務病院で懲戒処分を受け、深夜に警察に呼び出され、他の7人の医師とともに自白書と、今後「噂」を広めないという訓戒書に署名させられた(中国には「言論の自由」はない)。李氏自身新型肺炎に罹患し、中国人民法院ですら警察を非難し医師らを称賛したのだが、李氏はこの7日に死亡した。そのニュースを流したのは他でもない国営メディアであり、そのことは、共産党が支配する強大な言論統制機関に綻びが生じていることを示している。言論の自由が欲しいという人々の当然の要求を、もはや中国当局は弾圧できないのではないだろうか。

中国の歴史を学ぶと、その独特の「天治」(=易姓革命)という概念が分かる。人治でも法治でもない。地位や出自とは無関係に、強力な指導者が天下を統一し、中華帝国(なにせ、自分たちが世界の中心であるという中華思想である!)として興隆し繁栄するが、やがて衰退し「天命」を失って、次の王朝に打ち倒されるというものである。天が、統制できない無能な指導者に対して怒っていることは、天災、飢饉、疫病、侵略、民衆の武装蜂起によって示されることになる。香港での抗議行動、台湾の総統選挙結果、あるいは米国との貿易戦争もこれに入るかもしれない(米国とうまくいっていないので、日本には友好的態度を取るのであろう)。この新型肺炎は、独裁者習近平の「天命」を覆す脅威になるかもしれない。もしこの後短期間で押さえ込んで収束できるのであれば、地方政府の危機対応担当者にでも責任をなすりつけ、知らぬ存ぜぬを決めこめるかもしれないが、もしそうでなければ‥。

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