パリオリンピック、アメリカ大統領選など

 日本は記録的な酷暑続きであちこち自然災害にも見舞われているが、パリは30度に達さず快適だとのこと。あそこも非常に暑い時があるので、本当に良かった。3年前の東京オリンピックの時も暑さ対策が大変だったと思い出す。そもそも8月に開催するのは(この時期だと他の大きなスポーツイベントがないという)アメリカの大スポンサーの意向によるもので、1964年の東京オリンピックは10月開催だった。日本は今や10月でも残暑が残るが、それでも8月とは比較にならない。

 連日オリンピックの毎日である。私は男子体操競技が大好きなので、団体決勝の30日(火)午前2時頃~、そして個人総合の1日(木)午前2時頃~とリアルタイムで観戦してしまった。団体決勝は最後に鉄棒のみを残す時点で中国に3点以上離されていたので、ああ残念ながら金はダメだなと諦めた。各種目3人の試技で決まるところ、各人が中国選手に1点以上の差をつけるのはほぼ不可能だと、ほとんどの人が思っていたはずである。ところが、その後奇跡の逆転が起こり、最終的には中国に0.5点の差をつけて金メダルに輝いた。中国の2番手選手が2回も落下してマイナス2点となったからで、もし落下が(通常ありうる)1回に留まっていたら、この逆転はなかった計算である。目前にしていた金メダルをすっと逃してしまった中国選手・関係者・中国国民の無念さはいかばかりだろうか(2番手選手が無事に帰国でき、あと平穏に生活できることを祈る)。ところで今回気がついたのだが、前回の東京オリンピックで団体金に輝いたのはロシアだったのだ(ロシアオリンピック委員会として出場)。0.1点差で金を逃した日本は銀、そして中国は銅。今回ロシアは出場しておらず、もし出場していれば、日本金、中国銀だったかどうかは分からない。ロシアは伝統的に体操及びフィギュアスケートの強豪国である。

 東京オリンピックでの個人総合金メダリストは新星・橋本大輝19歳だった。種目別鉄棒の金も取り、今回の連覇を狙っていたのはみな周知だったが、彼は団体予選の時から不調が明らかだった。東京オリンピック以降互いに世界選手権の金を争うライバル関係にあった一つ上の張博恒が1位、2位岡慎之助(20歳)、3位橋本。橋本は、団体決勝あん馬で落下し(それが中国に引き離される大きな原因になった)、それを引きずったのか、個人総合のあん馬でもやはり落下、結局6位に終わった。だが、初出場の岡がミスなく6種目を終え、初金メダルに輝いた。張は床運動での失敗が響いて、岡に0.2点ビハインドの銀。銅の肖若謄(28歳)は東京オリンピック個人総合で、橋本に継ぐ銀を取ったベテランで、穏やかな笑顔が印象的な人である。岡選手、本当におめでとうございます! 橋本選手もどんなにか悔しいだろうに、岡の快挙を我が事のように喜んでいたのが心に残る。まもなく23歳。まだまだ十分に若いのだから(内村航平選手が初めて個人総合金メダルを取ったのはロンドンオリンピック、23歳の時だった。4年後リオで連覇。なお19歳での初参加北京オリンピックでは個人総合銀だった)、岡選手たちと切磋琢磨して体操競技を盛り立てていってほしいと願っている。選手層の厚い日本で代表に選ばれるのはそれだけで至難の業(柔道も同じ)。そのうえでのいざ本番で、どれほど良い成績を挙げても、個人総合に出られるのは各国2人が限度なので、大変なハンディだと思われる(ということで国籍を変えた選手もいた)。

 共和党副大統領候補のヴァンス氏がネットで大いなる話題になっていて、面白い。この人は、女性は子供を産んでなんぼのもの、家族とはそういうものなのだという古い価値観の人である。3年前、ハリスら民主党議員を槍玉に、「childless cat ladies」と公に宣った映像が世界中で多数回再生されている。いわく、子無しの猫好き女は、子供に恵まれず、猫を可愛がるしかない惨めな人生で、周りの人も惨めにする。民主党はそうした議員たちに牛耳られている、と。日本でこんなことを言ったら、それだけでアウトであろう。副大統領候補になったお陰でこれが蒸し返され、真意を問われた氏は「それは単に皮肉だ。だが言っている内容は真実だ」そうだ。ちなみに彼は2歳下のインド系エリート弁護士との間に3人の子供を儲けている。妊娠中絶は、たとえレイプであろうと近親間であろうと、絶対に許されない(近年共和党主導の連邦最高裁で、これまでの扱いを覆すそうした判決が下り、全米を巻き込む大問題になっている)。体外受精もダメだそうだ。カチカチの価値観の人で、女性票は大幅に減るであろう。なにせトランプはせいぜい1期。次の大統領候補は(順調にいけば)彼になるのだから、こわすぎる。

 ハリス氏は49歳で、同い年の弁護士と結婚した。自分自身の子供はいないが、夫に先妻の間の男女の子供がいる。10年前にはまだ10代だった彼らは、ハリスを「ママラ」と呼んで慕っているという。ヴァンスの上記発言に対して、彼らがネット上で反論し、また夫の先妻(映画制作者として有名らしい)が「ハリスは素晴らしい女性で、我々3人が親となってblended familyを作っている」と反論した。ヴァンスのいう「子無し」は継子や養子を含まないようなので、これら反論は痛くもかゆくもないのだろうが、しかし、不妊は一定数いて、子供を持ちたくても持てない人もたくさんいるのだし、そういう人たちへのシンパシーが全くないというのは、彼の人間性の欠如を窺わせる。子供を産まないということで切り捨てるくらいだから、障害のある人などは当然のように切り捨てるのだろう。多様性が叫ばれている昨今、伝統的な家族しか認めないというのはあまりに狭量である。子供なんかいてもいなくても、関係ないでしょ。そんなことは全くもって私的なことで、政治家としての力量とは無関係だわと面と向かって反論してやればよいと思う。ちなみに、子供がいない女性と同数の子供のいない男性がいるので、そういう人たちも差別されているのかと思いきや、男性の場合はbachelor として賞賛されるのだそう。なんだ、その男女差別は! アメリカはすごい男女差別だとは聞くけれど、確かにそうなのである。

 ハリスが副大統領に就任したときに、彼女の自伝を読んだが、あまり心には残らなかった。夫が50歳近くでの再婚なのに、花束を持ってプロポーズするんだとびっくりしたくらいである(笑)。今回、『カマラ・ハリス物語』(岡田好恵著)と『カマラ・ハリスの流儀』(ダン・モレイン著 土田宏訳)を図書館から借りてきて、前者は薄いし一気に読んだ。後者を読み始めたばかりだが、女性かつアフリカ・アジア系として初の副大統領になり、大統領候補に指名される運びになった希有な人のことは、アメリカを理解するうえでも知っておいたほうがよいと思うのである。ただ、いくら検察官としてのキャリアが長いとはいえ、トランプを犯罪人、自分はそれを糾弾する人といった演説は反感を買うのではと危惧するが、それは日本人的感覚なのかもしれない。彼女は2年間の上院議員のときも続く副大統領のときもトランプを糾弾することで存在感を示してきたのだし、またアメリカは相手を個人的に徹底的に攻撃するのが普通である(このやり方が好きでないのは、きっと日本人的感覚なのだろう)。ハリス氏の支持は上がっているが、しかし、ロシア問題、中東問題、安全保障問題など、実際どこまで分かっているのか覚束ない感じがして、何かの折りに急に風船が萎むように、一気に支持が下がってしまわないか、それが不安である(杞憂であれば嬉しい)。

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