昨日、九州場所は千秋楽、今年の大相撲最後の日であった。結びの一番は大関同士による相星決戦(珍しい…)。しかも13勝1敗という素晴らしい成績である。
乱戦とか群雄割拠といえば聞こえは悪くないかもしれないが、近年番付の意義がなくなって、大関の優勝は今年、なかったのだ。もっとも初場所(1月)と名古屋場所(7月)は横綱照ノ富士が優勝したのだが、春場所は初入幕初優勝という歴史的快挙を果たした尊富士の衝撃的デビューがあり(その前の初場所は新関取で十両優勝の快挙だったのだがフォローしていなかった)、夏場所(5月)は小結大の里、秋場所(9月)は関脇大の里であった。大の里はあらゆるタイトルを総なめして大学卒業後稀勢の里の弟子になった、大相撲期待の星である。昨年5月以降、記録的な速さで番付を駆け上がってきて、今場所には新大関に昇進。その素質、体格、取り口からして今場所は大関として優勝し、うまくいけば来年初場所も優勝(ないし準優勝)して、3月にはかねて待望の横綱誕生だと、私を含めて多くの相撲ファンが待ち望んでいたはずである。
ところが大の里は、対策をされたのであろうか、失速して9勝に終わった。立会いで一気に押し込めないとつい引いてしまう傾向があるようだ。勝ち越しはしたので新大関としてはそれなりの成績ではあったのだが、期待が大きかっただけに失望も大きかった。先輩大関二人は先場所共に、8勝7敗。二人それぞれに欠点があり、実をいうとあまり期待はしていなかったのだが、あれよあれよと勝ち進んで、終盤には両者このまま併走して優勝決定戦が千秋楽結びの一番になるようにと願うようになった。その期待が外れなかったのが何より嬉しい。二人とも今場所の取組みを見る限り、これまでとは相撲内容が大きく異なり、欠点を克服して飛躍的な上達を遂げていた。昨日は朝から結構ドキドキしていたが、二人の取組み自体はわりとあっけなく終わった。運動神経に恵まれて動きの早い豊昇龍が勝つのではと思っていたが、豊昇龍得意の右の上手投げにも琴櫻は屈することなく残して、日頃の鍛錬を窺わせた。さすがの大関相撲である。3月場所に大関に昇進して5場所目の優勝。今場所中に27歳になった。彼の敬愛する祖父、元横綱琴櫻もくしくも大関昇進5場所目に優勝、そのとき27歳だったという。
優勝後のインタビューも、落ち着いていて好感がもてた。これまでまだ一度も優勝がなく、どんなにか渇望していたことかと思う。母方の祖父は元横綱、父である現師匠は元関脇という、現在の大相撲業界屈指の相撲一家である。祖父に溺愛され、相撲道を邁進するべく道をつけてもらい、趣味も相撲というほど相撲が大好きで、たゆまぬ稽古を続けて順調に番付を上がってきた。祖父が父親の情けない取組みを叱ると、「お父さんを叱らないで。僕が強くなるから」と父を庇ったという話はとても好きである。親子で力士という組み合わせは、現在でも佐田の海や若元春・若隆景兄弟、亡くなった寺尾などいるが、元横綱・大関の子供や孫では若乃花・貴乃花くらいではないだろうか。残念ながら二人とも現役を離れたどころか相撲協会とも関係がなくなっている。たとえどれだけ遺伝や環境に恵まれたとしても、相撲道に邁進し番付を駆け上がるということは、並大抵の努力・精進で出来るものではない。その克己心たるや、どれほど褒め称えても褒めすぎることはないと思う。
敬愛する祖父に並ぶという、小さい頃からの大きな目標がある。祖父は遅咲きで、32歳で横綱に昇進した。優勝回数5回。孫はその1回目に並んだばかり。まだまだ先がある。決して慢心することはなく、このあとも毎日休むことなく稽古に励むことであろう。来場所は綱取りの場所になる。豊昇龍はもちろん、大の里も今度こそ立ちはだかってくるであろう。関脇以下の力士にも有望なのがたくさんいる。一番一番が真剣勝負。来場所が始まるのが今から待ち遠しい。本当に嬉しい。おめでとうございました。