検察トップの強姦罪、及び日本の皇室における世襲の意味について

大阪地検検事正(2018年9月当時)が部下の女性検事を強姦(被害者は酔っ払って意識がなかったので準強姦だが、刑罰は同じ)した事件は、今年になって明るみになった。元検事正逮捕、公判もすでに開かれている。検事の犯罪というにはあまりに破廉恥で、触れもしなかったのだが、人に尋ねられるし、あちこちの雑誌などで取り上げられているので、避けずに書かなくてはと思うようになった。

ちなみに細かくて恐縮だが、刑法における性犯罪の改正は昨今凄まじく、本件当時強姦罪は強制性交等罪(被害者に男性も含めたことで、態様を性交以外に拡大した)に、準強姦罪は準強制性交等罪になっており(共に5年以上の有期懲役)、さらに昨年の大きな改正で罪名は共に不同意性交等罪になった(刑罰は同じ)。これまで行為者視点だったのを被害者視点に変え、ハラスメントなど多種の態様を包含することにしたのである。北川被告の罪名は、だから正確には準強制性交等罪である。最低懲役5年なので、執行猶予は付かない。

北川被告はその夜被害者の女性検事を含めた数人で長時間にわたって飲食し、酔いつぶれた被害者がタクシーに乗せられたときに一緒に乗り込み、検事正官舎に連れ込んだとのこと。そこで意識不明の被害者を全裸にし性交したのだそうだ。犯行場所は官舎、現職の検事、それも大阪のトップ、被害者は部下というのが幾重にも犯情を重くする。セクハラ、パワハラ、ここに極まれりである。人を罰する立場である検事はまずは自らに厳しくないといけないが、自らに甘いこと、驚くばかりである。おそらくもともとそういう人ではあったのだろうが、地位が上がるにつれて、独裁者さながら自分はとにかく偉いと、万能意識が大きくなっていったのであろう(こわいことである)。

大阪地検検事正にまで上り詰めたのだから、その後は大阪高検検事長にもなれたはずだが、彼は59歳で勇退する。理由はこの事件故であろう。だが自ら犯した罪を反省してひっそりするどころか(まあ、そういう人間であればそもそもこんな破廉恥なことはできまい)、ホテルで盛大な退官パーティを行うなどして、被害女性の神経を逆なでし続けてきた。実に6年。彼女は夫も子供もあり、神経をやられて休職もしながら現職検事であり、今回顔出しはしないまでも記者会見にも応じた。見た人も多いだろう。

検察の不祥事、引きも切らず。村木厚生労働省局長に絡んで大阪地検特捜部が前代未聞の証拠改ざんをして、3人もの検事が逮捕されたのが2010年。同様に大阪地検特捜部が手がけて無罪になった、プレサンスコーポレーション業務上横領被疑事件(2019年)に関しては、このブログでも取り上げたが、その後取調べ検事が公務員暴行陵虐容疑で刑事告発され、大阪地検が不起訴処分にしたのに対して付審判請求がなされ、大阪地裁が同請求を認めて同検事が被告人になるという、前代未聞の顛末になっている。これらは、まあそうはいっても職務に関する犯罪であり、北川被告は個人の犯罪であるという大きな相違はあるが、尊敬できない検察、信頼できない検事、という背景は共通であろう。大阪周りの検察人事は結構固まっていることが背景にあるのかもしれないが、東京だって、黒川東京高検検事長を、明らかな法規違反までして検事総長にしようとしたことは検察の大汚点であり、人のことは言えない。黒川さんはその後コロナ禍での賭け麻雀を摘発されてこの話はなくなったという、笑えない落ちまでついている。この顛末については当ブログでも再三取り上げた。正直言って、なんだかなあ、ろくな奴がいないなあ、という感じなのである。

こんな話に並べて書くのは気が引けるのだが、最近参議院協会で、「目から鱗」の講話を聞いた。講師は倉本一宏さん(国際日本文化研究センター。今年の大河ドラマの時代考証もされている)。日本の皇室は言うまでもなく世襲である、それがなぜなのか、考えたこともなかった。もちろん中国は違う。中国の皇帝は天帝から天命を承け、地上の支配を委任されるというのが支配の論理であり、統治がうまくいかないと災異が起こり、天命が他の者に代わり(易姓革命)、その者が皇帝となって新たな王朝を創始するのである。もちろん新王朝は武力で前王朝を滅ぼして新しい皇帝を名乗るのだが、天帝の天命が移って「禅譲」されたのだとの形をとる。日本の古代国家はこの易姓革命思想を導入せず、代わって、皇祖神(天照大神)の子孫(ニニギノミコト)が地上に降臨し、その曽孫が大倭に入って神武天皇として即位し、その子孫が天皇位を継いでいくという、血縁による天皇位継承を主張したのである。こうした神話ないし継承論が形成されたのは7世紀頃である。

源氏も平氏も天皇の子孫であると主張し、それが彼らの権威となっていた。自らの権威づけなのだから、誰もその地位を奪い取ろうとするはずもない。信長や家康は違ったのかもしれないが、神からの継承だと考えれば、そう簡単に奪い取れない、誰もついていかないであろうことは納得がいく。倉本先生いわく、日本には世襲が根付いている。力士も政治家も芸能人も、どこもかしこも世襲なのは不思議でもなんでもないとのことだ。考えたら世界で一番古い会社は日本だった。アメリカは会社を興したあとは売却し、金を稼ぐことしか考えない。それは極端だとしても、伝統や文化を代々引き継いでいくというのは、日本では当然なことであり、そのためには世襲が最も都合が良いはずなのだ。ただ、政治家の世襲については、たとえ本人が能力的に適性があるとしても、イギリスのように別の選挙区から出してほしいと願うが。

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