世上を大いに騒がせた和歌山ドンファン事件が起こったのは、2018年5月24日。当時被害者77歳、妻22歳。2月に結婚したばかりだった。司法解剖によると死因は急性覚醒剤中毒、覚醒剤の使用方法は嚥下とされる。家にいたのは夫婦のみで不審者の侵入形跡はなく、金目当てで結婚した妻の犯行と騒がれたが、妻が覚醒剤を服用させた(これが殺人の実行行為となる)との決定打がない。お蔵入りしたの??と思っていたところに、3年後和歌山県警がようやく逮捕し、地検が起訴をした。やれやれと思っていたが、裁判はなかなか始まらない(彼女は別の男性に対する詐欺罪で起訴され、現在懲役3年6月の服役中である)。裁判員裁判が開かれたのはさらに3年後の今年9月。証人がたくさんよばれて証言し、検察が無期懲役を求刑したが今月12日、無罪判決が下された(その確率は高いと思っていた)。控訴期限の2週間はまもなく満了するが、いくらなんでも検察がこのまま無罪を確定させるはずもなく、控訴はするのであろう。高裁は裁判員裁判ではなく職業裁判官3人が裁くが、しかしひっくり返るだろうか。
通常、罪状を否認するときには「犯人性」を争うが、本件は犯人性というより「事件性」だという、非常に珍しい事例である。凶器となる、致死量の覚醒剤を飲んだのが本人であれば、そもそも犯罪ではないのだ。本人が飲み過ぎたか、あるいは自殺しようとして致死量の覚醒剤を飲むとすれば、どれほど苦くても飲みにくくても飲むことはできるだろう。だが、第三者が飲ませることができるだろうか。睡眠薬で眠らせていれば注射は出来るだろうが、飲ませることは出来ない。検察は、カプセルに入れるか何かして…と主張していたようだが、肝心のカプセルは見つかっていない。言いたくはないが、初動捜査が杜撰だったのではないか。そして、判決は「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」の定石通りになった。自殺の線は消している(愛犬の葬儀などのスケジュールを入れていたことから)が、過失で飲み過ぎた疑いを拭いきれないとしたのである。刑事事件においては本来、すべての立証責任は検察にある。自殺はない、過失で飲み過ぎたこともない、妻が覚醒剤を致死量まで飲ませた事実(=殺人の実行行為)について、その立証が合理的な疑いを容れる余地のない確信レベルに達したかといえば、そうではないと裁判所は考えたということである。そうした説明も裁判官から裁判員に対してなされたはずである。
この事件とある意味似ているのだが、長野県議が3年前、酒蔵兼自宅で妻を殺害した事件についてはこの23日、元県議に懲役19年の判決が下された(求刑懲役20年=有期刑の最高)。同じく裁判員裁判だが、この事件は他殺であり、被告人側は犯人性を争った。自分ではない誰かが殺害したと主張していたが、侵入者の形跡はなく、それどころか彼は当時職場から車を運転して(ナンバープレートを曲げて?)自宅まで戻ったことが防犯カメラなどから明らかになっている。動機としては不倫相手から結婚を迫られていたこと、妻の実家から多額の資金援助を受けていたこと、等々。本当に最低の男である。被告人側は控訴するが覆ることはない。両事件の求刑の差はどうだろうか。どちらも勝手な理由から配偶者を殺害しており、配偶者に落ち度はない。和歌山事件は金銭目的が際立っており、保険金殺人と同じように考えられたのであろう(別件もあるが詐欺であり、それ故に無期懲役となったとは思われない)。あとは長野事件の遺族には子供2人がおり、それが犯人の子供でもあることが考慮されたのではないかと思っている。
北九州の、無関係・無抵抗の中学生2人を対象にした殺傷事件は、やはり防犯カメラのお陰で犯人逮捕に至った。防犯カメラがなければ検挙できなかった事件は数え切れないほどあり、これが登場した当初プライバシーを侵害して違法だと争った人たちはすでに長い間息もしていない。この犯人には同じ年頃の娘もいるというし、元々は大人しい性格だったというから、暴力を振るうようになり家族全員が逃げ出した辺りから人格の変容が始まっていたのではないか。脳などの病気の可能性もある。近隣にも要注意人物として知られていたというから、こんな取り返しのつかない事態に至る前に、行政が何らかの介入ができるようにならないものか。千葉のほうでは、77歳の男性が50歳手前の夫婦を殺害し、近隣に放火までした。そんな高齢でも凶悪犯罪が出来るのである!! 闇バイト事件も後を絶たず、どこが狙われて侵入されるのか読めないため、怖くて老人ホームに入りたいとの動機にもなっていると聞いた。治安の良さを守るため、官民一体となって取り組んでいかなければならないと思う。
裁判官が金融庁に出向して、あろうことかインサイダー取引に手を出し、10銘柄を951万円で購入して数百万円儲けたとのこと。32歳、実名も顔も明らかになっている。金融庁から懲戒免職となり、まもなく公判請求される(身柄拘束はない)。初犯なので執行猶予はつくだろうが、禁錮以上は弁護士の欠格事由に該当し、執行猶予期間を徒過しても弁護士会はなかなか登録を許可しない。当然ながらインサイダー取引が犯罪であること(しかもこのところ大変厳しい)、バレることも分かっていたはずだ。将来は吹っ飛ぶのだから(家族も恥ずかしくて世間に顔見せできない)、たとえ何十億円儲けても割に合わないことは簡単な算数レベルの話なのに、もしかしてそれも計算できないのだろうか。勉強は出来るが常識はない。そういう人が結構いるのは知っているが(私の周りにもいる。それって常識でしょうというレベルのことがまるで分からない)、せめて専門分野に特化した理系の人に留めてほしい。文系でそれはないし、中でも法律家、何よりも裁判官ではあってはいけない。こんな事件になる前に、そもそもちゃんとした人を採用してほしいと切に願う。