今朝目が覚めると,まだ5時だった。肌寒かったこともあるが,何より,昨日の農相自殺の衝撃が大きい。現職閣僚の自殺は戦後初。
いくらスキャンダルの渦中にあり,農水省管轄の緑資源機構の捜査が進む中,参院選後の逮捕もありうると取りざたされていたとはいえ,現職閣僚が自殺するとは,想像を超える。
農相とは同じ派閥だった。志帥会である(現会長は伊吹文科相)。
最後に会ったのは今月9日,ニューオータニで催された派閥のパーティであった。中座した私は,遅れてきた農相と出口でばったり会った。いつも通りの感じで握手を求められ,返した。「何とか還元水」に始まる連日のバッシングを知るだけに,打たれ強い人だなと感じた。
資金疑惑の噂は絶えなかった。鈴木宗男氏とことに親しく,自民党の部会でも官僚を恫喝するなど,手法もそっくりだった。その鈴木氏が逮捕されて以後,彼は目に見えて変わった。昨年安倍内閣が誕生した時,彼は熊本県連を安倍支持でまとめあげるなど汗をかき,初入閣を果たした。当選6回。大臣になって然るべきキャリアでもあった。
しかし,よりにもよって農林出身で族議員の典型と言われる彼をそのトップに据えた人事には永田町でも多くの人が首を傾げていた。内閣調査室等からも然るべき報告があったにかかわらず,首相は耳を貸さなかったとも聞く。周囲の危惧は的中し,入閣後次々と疑惑が噴出。結局はもともとの任命が拙かったのである。
遺書が6通残されていたというから,発作的な自殺ではないはずだ。想像だが,彼は辞任を願い出ていたのではないのだろうか。現職閣僚の自殺が内閣に与える衝撃が尋常でないことくらい自明の理だからである。
だが,首相は彼を終始かばい続けていた。佐田行革大臣がすでに辞任,柳沢厚労大臣の失言問題もある。辞任ドミノになっては内閣がもたないと考えたからであろう。だが,松岡大臣の問題は柳沢大臣の失言の比ではない。犯罪や疑惑に対して清廉な感覚さえ持っていれば,辞任させるべしとの決断が容易に生じたはずである(もっともそうした普通の感覚があれば任命もしなかったであろうが)。潔くそうしなかったことが,農相を追いつめたのではないだろうか。
自殺の前日は日本ダービー。牝馬のウオッカが3歳馬の頂点に立つという歴史的なレースを,首相夫妻は満面の笑みで観戦していた。そこに主管大臣の姿はなかった。すでに熊本での墓参りも済ませ,母親にも会って,自殺を決意していたのである。部下の苦悩の胸中を察することのないトップの姿が空しく迫る。
農相は国民への説明責任も果たさないまま,疑惑とともに亡くなった。であっても捜査は敢然と続けられることを願う。さはさりながら,合掌。生を生きる性に生まれついた人間が,死のほうがより幸せだと思う事態になることほど,哀れなことはない。