久間発言に思うこと

 すっかり時宜に遅れてしまったが,6月30日の「原爆投下はしょうがない」発言は衝撃的であった。
 久間さんはイラク戦争は誤りだったと,閣僚であるに拘わらず本音を喋ってアメリカに睨まれたので,つい軽くゴマをすったような気もする。だが,当のアメリカ大統領でも決してこんなことは言わない。罪のない人を多く殺し,子々孫々まで影響を与えた行為が人道的に許されないことは,普通の感性を持ちさえすれば自明の理だからである。それをあろうことか,日本の防衛大臣が口にした。おまけに彼は長崎の政治家である。
 当然ながら,一般民衆を狙う原爆投下は紛れもない戦争犯罪である。その意味では東京大空襲も同じく戦争犯罪だが,原爆投下の意味は比較にならないほど深い。核兵器廃絶は国際的課題であり,かつ人道的課題である。唯一の被爆国の担当大臣がそれを非難もせず,漫然と正当化して,一体どうするというのだろう。職務意識の欠如も甚だしい。
 久間さんは冷静に話をされ,頭のいい方だとずっと思っていたが,私の認識が誤っていた。これは失言などという軽いレベルではなく,人間性や知性,歴史認識といった人の根幹に関わる由々しき事態だからだ。辞任は当然である。

 私が実はもっと呆れ果てたのは,安倍首相の態度であった。人道的に許されない発言だとして直ちに辞任を勧告するでなし罷免するでなし,「アメリカの立場を言ったものであろう」! なんだ,これは。絶句した。日本の公務員はすべて日本の国益を担う。国務大臣,ことに防衛大臣に至ってはなおさらだ。それがなぜアメリカの立場を言う必要がある。これはイロハの常識である。
 安倍さんのよく使う「私の内閣」に違和感をいつも感じる。内閣は公の存在であり,大臣はすべて公職だが,どうやら私物化しているのではないか。お友達,気心の知れた人ばかりを起用,何か問題が起きても徹底的に庇う。公の意識が欠け,指導者としてのけじめが見られない。松岡大臣の自殺の時にそれをひしひしと感じたが,久間さんを庇ったときに,この人には普通の人の感性もないのだと感じた。
 こうしたことが国際的に大々的なニュースになって,なんと恥ずかしいことであろう。国益を害すること甚だしい。大臣も大臣なら首相も首相。日本が立派な国であると思ってくれる人は世界中に皆無である。

 元公安調査庁長官の弁明,そして久間発言。昨今立て続けに起こった「小説よりも奇なり」の2つの大事件は何を語るのか。2人とも学歴,経歴,肩書きのどれを取っても日本のトップクラスである。それがこのざまなのである。
 2人だけが突出した例外であろうはずもない。全体に言葉が軽くなっていると書いた識者がいる。実際,詐欺師は自分の言葉で相手を説得しよう,騙そうと真剣だ。その真剣さもなく,ただやたらに軽い。人をなめているのであろう。
 おそらくは日本全体が劣化している証左なのではないか。社会保険庁の消えた年金記録は,そのことを雄弁に物語ってはいないだろうか。

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