執筆「治安の安定をも左右する ワーキングプア問題は喫緊の課題」

 我ながらなんという卓見であったろう。「ワーキングプア問題」を取り上げたのは2月号。
年収200万円以下の貧困労働者が1000万人を超えた実態を捉え、私はこう指摘した。「貧困は古今東西、犯罪を生む最大要因でもあるから、治安対策にも必須の課題である。日本の治安の良さは、教育によるモラルの高さに加え、経済的な安定によって保たれてきた。」
 5月、江東区マンションで女性遺体逸失事件が起こった。そして、6月。犯罪史上に残る秋葉原の大量通り魔事件が起きた。
 犯人はどちらも派遣社員だった。
 犯罪を個別に見ればそれぞれ要因があり、派遣だから、貧困だから、ということはないが、全体的に見れば、社会を映し出す鏡となる。契約更新があるのか、次の雇用があるのか分からない、明日が知れない人生は絶望と裏腹だ。秋葉原犯人は、25歳にしてすでに、独りぼっちの老後を描いていた。
「人は夢を失ったときに老いる」とは、ウェルマン『青春の詩』。負け組の人生が早くに確定すれば、自殺するか、さもなくば社会に怒りを爆発させるか。理不尽であるにしろ、犯罪予備軍がうごめている気配がひしひしと感じられる。
「必要な時に必要な人材を」。これは使う側の論理である。労働者は会社に搾取され、派遣業者にも搾取される。要らなくなったら使い捨て、では物と同じである。
 会社の社会的貢献とは「何よりも雇用を作ること」だと、名企業経営者・永守重信氏は言う。寄附でもなければ、ましてリストラして利益を上げることではない。人は、能力より意欲だと彼は言う。
 働く意欲があっても働く場を与えられない人たち。ワーキングプア問題は社会安定のために喫緊の課題なのである。

自由民主党月刊女性誌
『りぶる』

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