「それは、犯罪者更生の理想的な制度ですね」
アジア極東犯罪防止研修所(国連機関)にいたとき、先進国・発展途上国を問わず、多くの司法関係者にそう賞賛された。保護司制度のことである。
保護司は、法務大臣から委嘱を受けた民間篤志家で、保護観察中の犯罪者・少年の改善・更生を、公私にわたって助けている。全国に五万人弱。
日本は古来「ムラ社会」である。人は先祖伝来の田畑から動けず、一斉作業も多い。互いに助け合い、我が儘を言わないこと。「ムラ社会」から刑事司法も見えてくる。
ムラで再び受け容れてもらうには、悔悟して真人間になっておかねばならない。自らの罪に真摯に向き合わねばダメだと、捜査官が懸命に諭す所以である。
そもそも犯人を逮捕するのは例外で、在宅での調べが原則だ。警察では微罪処分がある。送検後、半数が不起訴。起訴の九割近くが略式請求、つまり罰金だ。残りが公判請求だが、その六割に執行猶予がつく。できるだけムラで更生させるのである。何度も篩いにかけられ、新受刑者は年約三万人。
刑務所ではきめ細やかな分類収容・処遇が行われる。諸外国で分類といえば警備の軽重による分類だが、日本では学校の卒業資格も、職業訓練を受けての各種資格も、取得できるのだ。危険な者は隔離・放逐しておけばいい狩猟社会では考えられないことである。
今、保護司が高齢化し、減少しつつあるという。日本の良き伝統があちこちで崩れつつある、これも一つの表れかもしれない。
東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)