執筆「少年老い易く・・・」

 大学の講義を三コマ、受け持っている。一コマは一時間半。
「今時の大学生には無理ですよ。せいぜい一時間」。長く公立大学で教える友人の言に私も同感だ。故に講義は一時間にとどめ、あと個別の質問タイムにしている。ことに一回生は必修講義で五百人超だから、質問者の数も半端ではない。
初回で断然多かった質問は以下。「履修届要りますか」要りません。「教科書、本屋に行ったら切れてます」注文して下さい。「出席取りますか」いいえ。「試験問題はどんなのですか」穴埋め式じゃなく〇〇について述べよ式です。「教科書持ち込みありですか」六法だけです。
  二回目以降講義内容に関する質問が増えた。別の講義に関する質問あり、進路相談あり、ちゃっかり法律相談あり、いろいろだ。ゼミを持つ時間的余裕のない私にはこれが唯一、学生と個別に触れ合える時間なので、結構楽しんでいる。中には、即答できない高度な質問もある。
  大学でも二極化が進んでいるようだ。必ず前に座り熱心に聞く者。傍観者に徹した者。小学生相手なら、静かに聞きなさいと諭すのも教育の一環だろうが、最高学府の大学は本来、学問の場である。
とはいえ私自身、振り返って、あまり真面目な学生ではなかった。働かずに学べる環境に特段感謝もせず、若さの特権にも気づかなかった。だが人生で、純粋に勉学に没頭できる時期は限られるのだ。後悔はただ一点、もっと勉強しておけばよかった。
「少年老い易く学成り難し」。年を経て初めて実感される真実が多い。

東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)

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