執筆「法律の実務」

 司法改革のまず第一、「法律家を増やせ!」。長年、合格者年五百人だった狭き門を、九三年以降徐々に広げ、昨年は千五百人。これからもどんどん増やして、目標は年三千人だという。

 弁護士はすでに二万人以上いる。検事・裁判官を合わせて二万六千人。フランス五万人、ドイツ十五万人、ましてアメリカの百万人超に比べると少ないが、これらの国々には、司法書士、行政書士、社会保険労務士といった職種がない。すべて弁護士の業務なのである。こうした「隣接法律専門職種」が日本には十万人もいる。

 互いに助け合うムラ社会の日本では、話し合いで解決するのがそもそもの基本であろう。日本が訴訟社会になることはすなわち国の形が崩れることでもある。訴訟の迅速化のため、弁護士僻地の解消のため、ある程度の増員は必要だろうが、さして需要のない所に供給を増やせば過当競争となり、全体として質が落ちる。アメリカでambulance chaser(救急車を追う人)と言えば、弁護士を指す。何でも事件にし、金にしようとする姿が映画や小説に描かれるようになって、すでに久しい。日本でも弁護士の懲戒件数は残念ながらすでに増加の一途にあるのが実状だ。

 その犠牲者の多くはふだん法律とは無縁な一般市民であろう。医者と同様専門職である弁護士の過誤はなかなか分かりづらい。信頼のおける人の紹介を受けるのはもちろん、納得できなければセカンドオピニオンを求めるといったことも今後必要になるかもしれない。

 量を増やして質を落とさないために、昨春法科大学院がスタートした。本家本元のロースクールとは違い、法学部を残した上での大学院だから、早ければ十八歳から何年もの間ひたすら法律を学ぶことになる。怖いのは、マニュアルでの受験勉強しかしてこなかった者が、さらにまたマニュアルで条文を追い、判例を詰め込むことへの懸念である。法律は本来、人と社会にどっぷり浸かった、生臭い学問であり実務なのである。

産経新聞「from」

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