暗いニュースが続く中、久々に明るい話題に接した。「20歳の辻井伸行さん、バン・クライバーンコンクールに優勝」。
日本人が栄えあるコンクールに優勝すること自体非常に慶賀なことであるが、ことに辻井さんは生まれつきの全盲である。どれほどの御苦労があったことか。何であれ楽器演奏は、まずは楽譜の読み方を教わり、見よう見まねで演奏の仕方を学ぶことから始まる。視覚が不自由であることはそれだけでおそろしくハンディである。
それでもバイオリンとかフルートであれば、指が届く範囲に音があり、いったんコツを会得した後はさほど難しくないかもしれない。だが、ピアノの鍵盤は左右に広がり、中にはリストの「ラカンパネラ」のように、指がばんばん跳躍する超絶技巧曲もある。目が見える人でも音を外すのだから、辻井さんの指には目がついているのかと米国の聴衆がびっくりしたのは当然である。
天賦の才はハンディなど易々と超えてしまったのであろう。天才は、曲を聴いただけで、調・和音・音楽の構成を直ちに理解し、すぐさま再現できるという。羨ましい限りである。そんな特殊な耳と頭脳があれば、目はさして重要ではないのかもしれない。彼に聞こえる音楽、自ら奏でる音楽にはきっといろいろな色彩があり、様々な宇宙を創造しているのであろう。
辻井さんの才能はひとり演奏を超えて編曲・作曲にも及んでいる。親しみやすい明るい性格は、今回辻井さんと共に脚光を浴びた元アナウンサーのお母様、産婦人科医のお父様の、豊かな人間性と愛情によって育まれてきたものであろう。
辻井さんのお陰で、にわかにクラシックファンが増え、とても嬉しい。今後の活躍を心から応援したい。
自由民主党女性誌
『りぶる』