プロフィール

選択的夫婦別姓制度の推進
2002.7.24.現在
INDEX
1.
経緯
5.
子どもへの責任・愛情と姓は無関係
2.
反対の理由
6.
通称使用は解決にならない
3.
推進者=自己中心的・無責任か?
7.
議員立法案の骨子=家裁の許可制
4.
夫婦同姓は日本の伝統・文化ではない    
 

1.経緯
 

 法務省は今を遡る平成8年、法制審議会答申を経て、選択的夫婦別姓も含めて婚姻制度全般を見直す趣旨の民法・戸籍法改正案を作りました。それが成立に至らなかったのは自民党内での反対が強かったからでした。

 2001年秋臨時国会中の11月、推進派の多数の署名を受けて法務部会において再び審議が始められましたが、ここではその対象をあくまで選択的夫婦別姓に限りました。その背景には、女性の職場進出、一人っ子の増加などによって、ことに若い年齢層で夫婦別姓を望むカップルが多くなっている(事実婚に甘んじている)という現実があります。

 最大の問題である子どもの姓については、婚姻時に定めはするものの、最初の子の出生時に別の姓の届け出可、以後の弟妹の姓は統一、成人に達した後は姓の変更可、が骨子です。なお、経過措置規定として、導入後2年以内に届け出れば別姓夫婦になることができる、としました。

 ですが、法務部会において反対意見が続出しました。ただ、大勢は、別姓使用にあくまで反対というのではなく同姓による社会生活上の不便は認め、だがそれは通称使用で足りるというものでした(後述 6. )。また、「例外的」夫婦別姓は、原則はあくまで同姓とし、別姓はあくまで例外的とする趣旨です。

 引き続く2002年通常国会における部会審議でもまとまることはなく、閣法としての提出は断念、議員立法として提出される運びになりました(後述 7.)。

 7月16日、議員立法提出に必要な衆院議員20名(参院であれば10名)を中心とする「例外的に夫婦の別姓を実現させる会」(会長笹川堯、最高顧問山中貞則)の第一回会合が開かれました。私は5人いる副会長の1人ですが、全役員中参院は私1人とあって、昨日来鋭意会館内の各事務所を回って入会者を募っています。家裁の許可を必要としたのですから賛成多数ですんなり、というようなものですが、反対の支援団体などもあって、なかなかそうはいかないようです。

 議員立法であっても政党が提出する以上、閣法と同様に部会→政調審議会→総務会の承認が必要とされているようです。7月24日、法務部会が開催され、私は法律家として閣法との相違を説明しましたが、それでも両者に違いはないとか、やはり反対との意見が多数出て、意見集約は難しいとの感触です。

2.反対の理由
 

 臨時国会での審議開始後、これまでは激励メールだけだったのがその量をはるかに超えて(大部分は組織的活動と思える)反対ファックスが私の所にも毎日それこそ山のように送られてきました。反対意見の多くは、議員のそれと同様、残念ながらかなり感情的です。理由は大体以下に要約できるようです。
 少年非行の増加、学級崩壊などの中、家庭が崩壊する危険性。子どもが可哀相。日本の伝統文化を守れ。あるいは夫婦別姓=フェミニズム・共産党。即刻自民党を辞めて共産党に行け、という過激な(!)ものもありました。

 あくまで選択的な別姓であって強制的ではないのに、なぜ反対するのでしょうか。おそらくは、結婚しながら別姓でいたいような夫婦(相手に合わせない。家庭に入ろうとしない、親の介護もしない……)は自己中心的で無責任な連中だとの思いがあるのでしょう。実際、夫婦別姓=フェミニズム連動というマイナスイメージが出来上がっているらしいことは非常に残念なことです。

 2002年2月、弁護士会主催の「選択的夫婦別姓シンポジウム」にパネリストとして参加しましたが、その際、組織的と思える反対派が結構参加していて、理解不可能な感情的意見を縷々述べられて閉口しました。

3.推進者=自己中心的・無責任か?
 

 もし彼らがただ恋愛や同棲をしたいだけの「無責任」なカップルであれば(もっとも私自身はそれも一つの生き方であり、当事者が責任をとればいいと思いますが)、あえて法律婚を求めるでしょうか。法律を遵守したい、そして子どもを嫡出子にしたい、と思えばこそ法律婚に固執するのです。
 私の所に来る激励メールのほとんどは、深く愛し合い、互いの個を認め合っている(夫は自分の姓を変えたくない。そして自分が嫌なことを妻にさせられないと考える)カップルからのものです。ただ別姓での結婚が認められないために事実婚でいる、そのために子どもが産めないという切実で真面目な訴えであり、たとえわずかでも実際に困っている人たちがいるかぎり、助けることこそが法の役割だと思います。

 私は最近この問題を、臓器移植法案に喩えて説明するようになりました。分野は違いますが、考え方の筋としてはあながち誤ってはいないでしょう。つまり、私自身は人の臓器を貰ってまで生きたいとは思わないけれど、そうまでして生きたいと考える人の考えを否定する立場にもないし、権限もない。それはその人の生き方なのだから。たとえ少数でもそうしたいと言う人がおり、法律が認めればその人たちが救われるのであれば道を開いてあげるのが立法府の役目ではないでしょうか、と。

4.夫婦同姓は日本の伝統・文化ではない
    北条政子や日野富子などの例を見ても分かるように、中国・韓国の儒教文化の影響を受け、古来夫婦は別姓でした。江戸時代でも夫婦は別姓でした(もちろん姓が許された一部階級に限りますが)。夫婦は対等、夫婦別産制がとられ、銘々働き(共稼ぎとは言わない)も普通でした。夫婦同姓は明治以降、わずか百年程度の歴史しかありません。

 諸外国においては今や夫婦別姓ないし選択的別姓が主流であり、夫婦同姓のほうがむしろ例外です。韓国は未だに夫婦別姓(子どもは父親姓)ですが、中国は選択的夫婦別姓(子どもはどちらの姓でも選べる)となっています。

 制度に絶対的なものが一体どれほどあるでしょうか。
  かつて通い婚の下、子どもの面倒は妻の実家が見ていました。男は自分の子どもの養育はしない代わり、甥姪の養育をしなければならなかったのです。一夫一婦制どころか側室が大っぴらに認められていた時代も長くありました。一夫一婦が同居しなければならないとなったのは日本では明治以降のことですし、そのほうがむしろ新しい制度なのです。

 わずか60年前の戦前、「妻」は禁治産者で、女性には選挙権もありませんでした。それが戦後、男女平等、女性もどんどん社会に進出するようになって、個人の生き方はますます多様になっています。
 器(制度)は人を生かすためにあります。初めに器(制度)ありきではないのです。

5.子どもへの責任・愛情と姓は無関係
   夫婦別姓を選べば、子どもと片親との姓は当然違ってきます。ですが、そのことと子どもへの愛情・責任とは無関係です。同姓・同居の夫婦で喧嘩が絶えず、子どもへの虐待を繰り返している家庭はたくさんありますし、離婚して子どもと姓は変わったけれども変わらぬ愛情を注ぐ親もたくさんいます。姓は個人の呼称にすぎず、子どもを育てるのは親としての在り方の問題です。

 私自身、忘れられない経験があります。修習生時代のこと、同業者との未入籍結婚で出産した(子どもは認知)女性弁護士のことが話題になったとき、「そんなことは許されないことだ」と声高に批判した女性がいました。驚いたのは、その女性が、見合いの最初から気に入らなかったという相手と妥協して結婚し、出産し、まもなく案の定破綻して調停離婚した人だったからでした。どちらの子どもが産むべきではなかったか、考えるまでもないことです。

6.通称使用は解決にならない
    反対派でも通称使用を認めない人は稀です。審議開始後、その旨を推進する議員連盟が作られましたが、400余りもの法律改正が必要だという煩瑣さを別としても、おそらくはそのデメリットが正しく理解されていないのだろうと思われます。
 個人の呼称としての姓を必要とするのは職場と家だけではありません(否、家庭内にいる限り、姓は必要ないのです)。パスポートや免許証その他、公私共に実に多くの場面で姓は必要となります。  

 また、通称使用が認められさえすれば不都合が解消されるかといえば、決してそうではありません。例えば、弁護士会は通称使用を認めているのにかかわらず、別姓を推進しています。なぜならば不都合が多々生じるからです。例えば、破産管財人や遺言執行者など本名によることが必要な場合には、それが通称名の弁護士と同一であることの証明が必要となる、などです。

 併記とするのか、本名・通称のいずれにするのか。
 常に併記としても、あるいは場合によって使い分けるとしても、本人も社会も非常に紛らわしく社会的な安定を害します。併記とすれば、例えば呼び出しで〇〇(〇〇)さん、と呼ぶのでしょうか。面倒だからおそらく結局は一つしか書かないだろうし、呼びもしないことでしょう。表札も両方書いておかなければ郵便物が届かないし、人も訪ねてこられません。最悪の場合、2つの名前があることから、犯罪や借金など悪事に利用されることも考慮に入れておかねばなりません。
 あるいはどの場合にも通称使用とするのであれば、別姓を認めるのと何ら変わりはありません。役場にある戸籍を子どもが見ることはなく、お母さんがいつも通称を使っていれば、お母さんの名前は違うと考えるからです。

7.議員立法案の骨子=家裁の許可制
 

 議員立法案は、より多くの賛同を得られるよう、例外的夫婦別姓制度の趣旨にさらに厳格に「家裁の許可」を必要としました。

 別姓が認められるのは「職業生活上の事情」や「祖先の祭祀の主宰」その他の理由によって、婚姻後も婚姻前の氏を称する必要がある場合です。つまり職業を続ける上での不都合、あるいは一人っ子同士や姉妹だけ、その他これに準じる場合であって、ただ単に名前を変えたくないといった理由では認められないことになります。

 家裁の許可が要るとなれば、それだけ家裁の事務量は増えますし、裁判官の増員も必要になります。ですが、別姓を希望する当事者としては時間も手間もかけて婚姻をするのです。反対派がおそらくは想定しているであろう、いい加減な気持ちでの別姓夫婦はこの時点で排除されるはずですし、何より家裁が審理した上での許可ですから、そこにはきちんとした歯止めがかかります。現在でも戸籍法(107条)は「やむを得ない事由による氏の変更」(申立て件数11,888件 平成13年)「正当な事由による名の変更」(同8,454件 同)を認めています。

 ただ、経過規定は削除されました。つまり現在婚姻している夫婦で別姓を名乗りたい場合は、一度離婚したうえで家裁の許可を得、再度婚姻する要があります。

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