19日大阪、20日尾道、21日神戸・大阪、22日東京、23日横浜、24日滋賀……連日暑い。でもクーラーが嫌いなので、家ではまだつけたことがない。
車中、文庫本をいくつか。『刑務所の王』(井口俊英著 文春文庫)が出色である。
著者は、大和事件ニューヨーク支店に勤務中、巨額損失事件を引き起こして米司法当局に逮捕された人物だ。獄中事件を綴った『告白』がベストセラーになり、続いて、獄中で知り合った「刑務所の王」ジョージ・ハープをノンフィクションにした。ディテールにこだわった描写力には舌を巻く。
よく聞くことだが、実際、アメリカの刑務所では刑務官の収容者に対する、あるいは収容者間の暴力・いじめは日常茶飯事である。収容者の平常心を保つため薬物使用は黙認され、薬物取引のシンジケートが組織されもする。その創始者の一人ハープにとって、刑務所はいたって住みやすい社会である。無法地帯だからこそ「力の強い者が勝つ」のである。
フットボールの高校スターとして将来を嘱望されていたハープは(日本では起訴猶予になるような)些細な事件を起こして17歳で受刑者となってしまう。出所後知り合って結婚した最愛のバーバラと共に暮らすことを切望しながら、ハープは娑婆ではもはや生きていけない。娑婆ではただの負け犬として扱われるからだ。日本のような保護司制度はなく、仮釈放後自ら職を探す。職歴も資格もない中年男に一体どんな職があるだろう。またもや銀行強盗や薬物取引に戻っていくのが必定なのである。
終身刑受刑者が脱走しても、殺人さえ起こさなければ死刑にはならない。銀行強盗など何でもやり放題である。あるいは死刑が廃止されたところでは、たとえ人を殺してもそれ以上の刑罰を受けることはない。従って、他の受刑者を殺す。刑務官を殺す。やりたい放題なのである。
実際アメリカではそういう事態が普通に起こっていることをこの本は教えてくれる。死刑を廃止して代わりに終身刑を、と主張する人たちは日本ではそういう「無法」は起こりえないと、何を根拠に信じるのだろうか。
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